「敗北は自分以外の要因」
また、サンダース氏についてヒラリー氏は「2016年の民主党予備選挙でサンダースは私の選挙運動に“lasting damage”(持続的なダメージ)を与えた。それがトランプの“Crooked Hillary”攻撃の基盤を与えた」と書いている。
政治専門紙「ザ・ヒル」の9月18日付記事によると「ヒラリー・クリントンとバーニー・サンダースの争いは民主党にlasting damageを与えるのではないかと民主党員は懸念している」という。その記事に対する読者のコメントの中に、こういうものがあった。
「彼(サンダース)を好むと好まざるにかかわらず、サンダースはヒラリー・クリントンがどれだけ腐敗しているかに光を当てることに役立ったことは明らかである」
サンダース氏が与えたダメージが敗因のひとつであるというヒラリー氏の指摘について、サンダース自身はザ・ヒルの記事中で、こう述べている。
「クリントンは、歴史上もっとも人気がない候補者と対戦して負けた。彼女はそれについて腹を立てているが、その気持ちはわかる。でも我々の仕事は後戻りすることではなく、前進することだ。2016年の大統領選について話し続けることはいささかばかげている」
つい最近行われたNBCの世論調査では、ヒラリー氏の好感度率は30%だった。これまでで最悪の数字だ。
ヒラリー氏は、敗北したさらに別の理由として、セクシズム(女性に対する性差別)を挙げている。前出のマーティン氏によるインタビューで、それについてこう答えている。
「男性は職業的に成功すればするほど好感度が高くなるが、女性は成功すればするほど好感度が低くなる」
筆者は投票日の3カ月以上も前の昨年7月に『アメリカはなぜトランプを選んだか』(文藝春秋)を上梓したが、同書を執筆するためにインタビューしたコロンビア大学ジャーナリズム科のグウェンダ・ブレア教授は昨年4月、「ヒラリー・クリントンが女性であることを忘れてはならない。アメリカ国民が、女性が大統領の地位を得ることに準備ができているかどうか甚だ疑問である」と語った。
ヒラリー氏は、「自分の選挙戦術は間違っていなかった。私が敗北したのはコミー・レターとバーニー・サンダースなど、自分以外の要因である」と主張しているが、来年行われる中間選挙で、この本が民主党にとってマイナスになることは否めないだろう。
さらにヒラリー氏は選挙制度まで批判している。一般投票では300万票近くヒラリーが勝っているので、もしこれがフィリピンで行われていたら自分が勝っていたと言わんばかりだ。しかし、民主党が伝統的に強いカリフォルニア州とニューヨーク州など19州ではヒラリー氏が勝ったが、ほかの州ではトランプ氏が圧倒的に勝っている事実を忘れてはならない。ヒラリー氏の性格を表現する言葉として“self-righteous”という言葉が頻繁に使われるが、これは「自分だけが正しいと思っていること」という意味だ。
「もし~がなければ、私は大統領になっていた」という考え方は、根本的に間違っている。ヒラリー氏はFBIについて“a hotbed of anti-Clinton fervor”(反クリントン熱の温床)と同書に書いているが、彼女が大統領に選出されなくて一番安堵しているのは、過去におかした彼女の悪を調べつくし、すべてを把握していたFBIではないだろうか。
(文=大野和基/ジャーナリスト)