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江川紹子の「事件ウオッチ」第88回

その公約で本当に日本はよくなるのか?「改革」という名のマジックワードに惑わされてはいけない!

文=江川紹子/ジャーナリスト
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ポピュリズムを勢いづかせた果てに

 「改革」を押し進めようとする人たちは、さまざまな問題点より、「改革」のよい所を訴える。その際、しばしば人や物事を「善悪」「白黒」をはっきり二分させる二元論を駆使する。

 「改革」に疑問を持ち、否定的な人たちは「守旧派」とされ、既得権益にしがみつき「改革」を邪魔する、悪しき「抵抗勢力」に分類される。実際、既得権益を持つ者に問題がないわけではないから、こうした構図を提示されれば、持たざる者は怒りをかき立て、そのエネルギーが「改革者」を押し上げる。

 これがまた政治の劣化をさらに押し進め、ポピュリズムを勢いづかせているように思う。

 トランプ米大統領の出現はその典型だ。彼は「既得権益層から米国の政治を取り戻す」と訴えて、支持をを得、大統領になってからも、前政権の実績を否定する「改革」を目指す。

 小池都知事の手法も同じだ。都議選では、既得権益層の自民党都議連を敵に見立て、「都民ファーストか、利権ファーストか」という対立軸を設定。「東京大改革を進めるか、止めるか」を訴えて大勝した。

 そのお手本は小泉元首相だ。彼は、「古い自民党をぶっ壊し、政治経済の構造改革を行う」と叫んで人気を集め、旋風を巻き起こした。包容力や多様性を持っていた自民党という組織は、これを境に質的変化を遂げてきた。「構造改革なくして成長なし」という小泉氏の叫びは、前回の総選挙で安倍自民が「この道しかない」というスローガンにもつながる。そこには、自分たちが示す道こそ「正しい道」であり、それ以外は「誤った道」という二元論的発想がある。

 安倍政権の「改革」は、トップダウン。リーダーである安倍首相は、「改革」を進めていく力強い姿を示してやまない。それに水を差す者は、たちまち「抵抗勢力」のレッテルがはられる。行政の公平性やプロセスの透明性が問われている加計学園問題も、菅義偉官房長官は「岩盤規制といわれる獣医師会、農林水産省、文部科学省が大反対してきたからではないか。まさに抵抗勢力だ」と批判し、「改革」の問題にすり替えた。安倍首相も「岩盤規制の改革には抵抗勢力が必ず存在するが、私は絶対に屈しない」と力強く宣言してみせた。

 確かに、「正」と「誤」、「善」と「悪」、「白」と「黒」を峻別し、前者を是として押し進めていくやり方は、速やかに物事を進めていくことができる。「決める政治」を押し進める安倍流は、スピード感が重視される現代の人々の需要に応えている一面もある。けれども、それによって「熟議」が犠牲にされてきた。

 だらだらと議論を続ければいいというものではないが、事態を急激に大きく変える「改革」をしようというのであれば、しかもそれが多くの人に影響を与える重要なテーマであれば、さまざまな意見に耳を傾け、よりよい、より弊害が少ないものにする努力は必要である。

 繰り返すが、改革が不要と言っているのではない。何をどう変えていくか。問題の認識や設定は正しいのか。手法は適切なのか。どのような弊害が予想されるか。それをどう手当していくのか……その他諸々の問題を議論し、常に「本当にこの改革は正しいのか」「この道は間違っていないか」を問い直す。そのために、議会はあると思う。

 私たち有権者も、そういう問いや疑問を意図的に自分の中で喚起したい。候補者や政党関係者から「改革」「革命」などという言葉が出て来るたびに、その主張から「改革」「革命」といったマジックワード言葉を除いたら、いったいどういう内容、それによってどういう事態が予想されるのかを考えてみよう。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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