大手新聞、企業ニュース大誤報は記者の勲章?お詫び不要で問題視すらされないカラクリ
【前回までのあらすじ】–巨大新聞社・大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に、以前から合併の話を持ちかけていた。そして基本合意目前の段階にまで来たある日、割烹「美松」で、村尾、両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)との密談が行われ、終了後、松野と村尾はそれぞれの愛人の元へ帰っていった。そして数日後、4人による第2回目の会談が行われた–。
大都新聞社長の松野弥介が怒気天を衝くような雰囲気で卓袱台に手を付き、身を乗り出した時、老女将が部屋に入ってきた。
「マーさん、頭から湯気が立ちそうですよ。ゆっくりお茶を飲んでください」
老女将は笑顔で松野を窘めるように言いながら、湯呑み茶碗を4人の前に置いて回った。そして、「お帰りの時はまた呼んでください」と言って部屋を下がった。
松野は怒りを収めるように、茶碗に手を伸ばし、一口啜ると、日亜新聞取締役編集局長の小山成雄を見据えた。
「小山君、身体検査というのはな、総理が大臣についてやるんだ。大臣が上司の総理のをすることはないんだ。そんなこともわからんのか」
松野の説教口調にほっとしたのか、小山は首をすくめた。そして、自分のおでこを右手で2、3度叩いてみせた。
「社長、ちょっと冗談が過ぎました。身体検査しようだなんて気は毛頭ありません」
お調子者のように振る舞う小山に、松野も御し難い男だという風情で、苦笑いするだけだった。すると、小山が続けた。
「お許しいただけるなら、あと1つだけ、教えてください」
「何だ」
「あのう、社長と北川(常夫)さんは、いつごろから今のような関係になったんですか? ずっと、接点がなかったようですが…」
「それはな。5年前に俺の出身地の和歌山県の町長だった親父の関係で、ちょっとしたトラブルがあったんだ。その時、大阪編集局次長だった北川君がよくやってくれてな。それで、4年前に東京に戻したんだ」
「論功行賞ということですか……」
「まあ、そんなところだが、トラブルのことは君らが来る前に村尾君に話しておいたから、あとで聞いてくれ。それとな、俺と村尾君の2つのSについては火のないところに煙は立たない、と思っていればいい。じゃあ、そろそろ、お開きにするか」
松野がそう言って、立ち上がろうとした。
「ちょっと待ってください。1つだけ、社長に確認したいことがあります」
黙りこくっていた隣の北川が口を開いた。
「何だ?」
「経済の新媒体をつくる、そもそもの目的です」
「そんなの決まっているじゃないか」
松野があきれ顔で続けた。