菅政権で初めての国政選挙が4月25日に行われる。衆院北海道2区の補欠選挙、参院長野選挙区の補欠選挙、参院広島選挙区の再選挙の3つだ。下馬評では、自民党の1勝(広島)、1敗(長野)、1不戦敗(北海道)とされる。過去に野党の2倍の票を出してきた広島は「勝って当たり前」なのだが、現実はそう甘くはない。
広島再選挙の結果は、9月の自民党総裁選に意欲を燃やす岸田文雄前政調会長(衆院広島1区選出)の今後にも大きく影響しそうだ。
「混乱が続く県連の出直しだ。その先頭に立つ」
河井案里氏の当選無効に伴う再選挙を前に、岸田氏は3月27日、自民党広島県連の新会長に就任した。広島県は岸田派所属の議員が多く、同派の牙城。岸田氏がこのタイミングで3度目の県連会長を引き受けたことに、今度の再選挙勝利に向けた並々ならぬ決意と危機感が見て取れる。
衆院の7選挙区のうち6つを自民党が占める広島は、まさに「保守王国」。問題となった2019年の参院選で改選2議席の独占を狙ったほどだから、1人を選ぶ今度の再選挙は本来なら楽勝のはず。ところがそこに、河井克行前法相と案里夫妻の公職選挙法違反事件が影を落とす。選挙の実働部隊となって票を掘り起こすべき地方議員が、今回は動けないのだ。県連所属の県議と広島市議で現金を受け取ったとされる人が、実に24人に上る。手足をもがれたかたちで自民党流の組織選挙を展開するのは容易ではない。
「河井事件でただでさえ自民党のイメージは悪くなっている。県議や市議が表に出たら、さらに印象を悪化させるだけです。『政治とカネ』の問題で再選挙になっているのに、県連が選挙費用を配るわけにもいきません。仕方ないので、まずは広島選出の国会議員8人が中心になって動いています。3月上旬からは地元以外の岸田派国会議員の秘書団も応援に入りました。岸田派は独自の選対本部を設置しています」(自民党関係者)
3月17日には自民党本部で二階俊博幹事長ら執行部が協議し、比例選出の参院議員を中心に企業や団体への訪問を重ねることも申し合わせた。秘書団や比例議員が大挙して広島に入ったとしても、地方議員とは地元との密接度に雲泥の差がある。
「従来の自民党票の7掛けぐらいしか獲得できないのではないか。苦しい選挙になるだろう」(同)
総裁選に影響も
広島で自民党候補が敗れることになったら、岸田氏の総裁選出馬の目も潰れかねない。というのも、ただでさえ岸田氏への党内の期待感は低い。3月21日に行われた自民党大会の後、岸田氏は次期総裁選について「チャンスがあれば挑戦したい」と改めて意欲を示したものの、岸田派以外に岸田氏を推す声はない。むしろ、菅内閣の閣僚として露出度の高い、ワクチン担当の河野太郎行革担当相や新型コロナ担当の西村康稔経済再生担当相のほうが、「ポスト菅」としての認知度が上がっている。
「菅首相は前々から岸田氏のことをあまり好きではない。次の総裁選に自身が出ない場合でも、岸田氏は絶対にノーだろう。自分の再選か、それがなければ、後継に想定している河野氏を推すだろう」(自民党ベテラン議員)
岸田氏の頼みの綱は、細田派に影響力のある安倍晋三前首相と麻生派の領袖・麻生太郎財務相だ。
「確かに、安倍氏と麻生氏の2人は『ポスト菅』で岸田氏を候補に入れている。前回も安倍氏の意中の候補は岸田氏だったのに、これといった成果が出せず、岸田氏では石破茂氏に負けてしまうだろうと、土壇場になって岸田氏を諦め、菅氏に乗り換えた。岸田氏が地元の選挙で負ける失態を犯せば、同じことになりうる」(同)
広島の再選挙は絶対に落とせない。岸田氏は正念場だ。
(文=編集部)