前回『「初音ミク」長期ブームを支える、販売元クリプトン社の“驚異的な”ライセンス戦略?』では、「初音ミク」ブームを支えるクリプトン社のライセンス戦略について、ご説明しました。今回は、クリプトン社が仕掛ける、さらなる2つの仕組み–「創作ツリー」と「ピアプロリンク」についてご説明をして、今回の「初音ミクと著作権」シリーズ最後の総括をさせていただこうと思います。
●クリプトン社が仕掛ける、さらなる2つの仕組み–「創作ツリー」と「ピアプロリンク」
クリプトン社の「初音ミク」の保護と利用の仕組みへの挑戦は、ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)とコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」に留まらず、さらに色々な範囲に及んでいます。この徹底した執念には、頭の下がる思いで、正直言うと、ちょっと怖いくらいです。
前回、N次創作【編註:初音ミクを使用した他の人の作品を取り込んで、さらに新しい自分の作品を生み出す、いわゆる「他人の著作に依拠して創作された創作物」】をつくるために、少なくともN-1次の著作権者の許諾を得なければならないという問題を、ピアプロ投稿作品を使うことで一元的に解決しているというお話をしました。
しかし、これを客観的に証明するためには、「本当に、ピアプロ投稿作品だけを利用している」ことを立証する必要があります。普通の方法であれば、せいぜい「ドラえもん」「ワンピース」「ポケモン」を使っていないことくらいは証明可能だと思いますが、使っているピアプロ投稿作品を全部ピックアップすることは、絶望的に難しいはずです。N次創作者が、N-1次、N-2次…1次の作品のすべてを意識して創作するなど、期待できないからです。
こうして、著作権のN次創作問題の権利関係は、常に訳がわからなくなるという問題を、はらんでいました。
クリプトン社は、この問題に切り込みました。
「創作ツリー」【註1】です。
これは、このような多段階の権利関係を、一発で「見える化」するものです。要するに、創作物の関係を「木」として見せるものです。操作は単純で、N次創作者は、参考にしたN-1次の創作物を登録するだけで足ります。クリプトン社はブログで、この「創作ツリー」を実験的試みと説明していますが、私はそれだけではないと考えています。
これは、クリプトン社のコンテンツビジネス戦略の一環と見るのが妥当だと思います。コンテンツ投稿サイト「ピアプロ」で、「こ、これは、素晴らしい!これは、是非、クリプトン社で商品化(サービスを含む)したい」というようなコンテンツが見つかった場合や、他社がそのようなビジネスの交渉をクリプトン社に求めてきた場合、何がボトルネックとなるかは明らかです。
権利関係です。N次著作物の商品化を行う場合、「営利目的」なので、当然「ピアプロ」の利益は得られません。クリプトン社といえども、1~N-1次著作者の全員から許諾を得なければならず、必要なら対価も支払わなければならないでしょう。