福岡県博多区にある中洲といえば、九州最大といわれる歓楽街で、中洲中央通りを中心とする繁華街には、その集客力と比例するかのように大きな利権が存在している。
その利権のひとつに「客引き」がある。キャッチと呼ばれる、店に雇われた人間が不特定多数の通行人に声をかけて、居酒屋やキャバクラなどへ誘いこむ行為だ。近年、取り締まりが強化されつつも、当局の目を盗むようにヤクザもシノギとしてきたのだが、六代目山口組分裂以降、この客引きをめぐるトラブルがたびたび起きていた。
そして、新年早々1月6日深夜にも、中洲の歓楽街で一時、緊張が走る事件が起きたのだ。
「中洲を本拠地とする六代目山口組系組織の組員が、久留米市に本部を置く四代目道仁会系組員らに暴行を受ける事態が発生しました」(地元紙記者)
この事件はすぐさま一部メディアでも報じられている。西日本新聞によると「中洲近くの路上で6日深夜、複数の男が男性を集団暴行する事件が発生。通報を受けた福岡県警博多署員が現場に駆けつけたが、加害者、被害者ともに既に現場から立ち去っていた」というのだが、暴行事件の発端とはいったいなんだったのか。ヤクザ事情に詳しいジャーナリストは、こう解説する。
「中洲という繁華街で、キャッチという客引きを立たす行為に対しては、暗黙ながら業界内できっちりと線引きがされています。この縄張りを破ればトラブルの原因となります。現に去年7月にも、それが原因とおぼしき発砲事件がありました。逆にいえば、それだけ客引き行為が今のヤクザにとって利権になっているということです」
去年7月の発砲事件とは、中洲のすぐそばの路上で任侠山口組系幹部が発砲を受けたというもので、後に道仁会系組織や他組織の幹部らがこの事件に関与したとして殺人未遂容疑などで逮捕されている。
「今回の道仁会系組員らによる暴行事件のきっかけは、直接的にはキャッチをめぐるものではなかったようなのですが、暴行を受けた組員が激しく酔っていたために、道仁会系組員らの客引きになんらかの暴言を吐いたことが発端ではないかと捜査関係者は見ているようです」(同)
暴行の一部は、被害を受けた組員がタクシーから降ろされるかたちになったため、タクシーのドライブレコーダーに映っており、県警ではそこから犯人の割り出しを進めているという。
一時は業界関係者の間で「抗争事件にまで発展するのではないか」との緊張が走った今回の事件。だが地元関係者の話によれば、事態はすでに収まっているという。
「暴行を受けた六代目山口組系サイドもすぐに一部で集結し、報復に動き出そうとする動きもあったと言われているが、大事には至らずその日のうちに当事者組織のトップ同士の話し合いで和解が成立している」(地元関係者)
尼崎では「神戸vs.任侠」の衝突
ただ、ヤクザ同士のトラブルが起きたのは、新年早々だけではなかった。去年暮れには、こんなことが起きている。場所は兵庫県尼崎市。結成当初から任侠山口組が何かと重要視している場所だ。12月28日、任侠山口組幹部らが乗る自動車が飲食店に数台集まっていたことが捜査関係者に目撃されていた。その夜、近くの飲食店に神戸山口組三代目古川組系組員が1人で訪れたことで、任侠山口組組員らと店の外で口論となり小競り合いが起こったようだ。そして1月10日には、事件に関与したとして、神戸山口組三代目古川組組員らが暴力行為法違反の疑いで逮捕されている。
昨年春、神戸山口組から任侠山口組が割って出たことを機に、傘下だった古川組も分裂。現在、任侠山口組古川組が使用している古川組本部事務所の権利をめぐっては、神戸山口組三代目古川組との間で民事裁判に発展しているという。
そうしたなかで迎えた10日、六代目山口組は新年の挨拶のために神戸市篠原にある六代目山口組総本部に結集して新年の顔合わせが行われており、同じく神戸山口組でも神戸市二宮にある神戸山口組事務所に、プラチナと呼ばれる直参の親分衆が集結している。
警戒にあたった捜査関係者によれば、集まった神戸山口組の直参組長たちは白ネクタイ姿で、新年会を兼ねての新年初顔合わせとなったのではないかと話している。また、早ければ近日中にも、六代目山口組総本部に対して、なんらかの使用制限を警察当局がかけるのではないかという。
昨夏から強化された当局の取り締まりが、さらに強化されると予想されるなかで、2018年が本格的に動き出した。
(文=沖田臥竜/作家)