東京都財務局・主税局をはじめ東京23区の税務担当職員は、一様に口を揃える。職員たちが怒りを露わにしているのは、政府が消費税の清算基準を見直すことを発表したからだ。
これまでにも、東京都は政府の指先ひとつで税を奪われてきた。もっとも有名な例がふるさと納税だ。和牛や海産物など豪華な返礼品が話題を呼んだふるさと納税は、制度が開始されて以降、富裕層の間で“節税”対策として静かに注目されてきた。それがテレビや雑誌などで頻繁に取り上げられるようになると様相は一変。広く存在を知られるようになった。
また、総務省が手続きを簡素化したこともあり、創設当初は約81億円規模(2008年度)しかなかったふるさと納税額は、1653億円(15年度)まで増加。爆発的にふるさと納税が増加したことで、東京・大阪などの都市圏の自治体は割を食わされることになった。東京都をはじめとする税収が豊かな自治体にとってみれば、自分たちが“稼ぐはずの”税収を奪われてしまうのだから、ふるさと納税ブームに怒り心頭となるのは当然だろう。
そうした自治体の怨嗟の声は総務省にも届いた。総務省は地方自治体の非難を無視できず、ふるさと納税の歪みを是正するべく、豪華な返礼品を出す自治体に“自粛”するように要請した。
これは、あくまでも総務省のお願いでしかないが、“お上”からのお願いは当然ながら強制的な意味を含んでいる。そうした総務省の態度に対して、一部の自治体は頭ごなしのやり方に反発した。とはいえ、多くの市町村は中央官庁に逆らえない。豪華な返礼品を出す自治体は、鳴りを潜めた。
こうして、ふるさと納税による税の流出は止まった。総務省が制度設計をしたふるさと納税に問題点はいくつかある。しかし、そうした問題を含みながらも、歳月とともに制度を育てていこうという思いが総務省にはあった。
ふるさと納税は、菅義偉官房長官が総務大臣だった時代に導入された。それだけに菅官房長官はふるさと納税制度に人一倍愛着を抱いているともいわれる。そんな長い目で育てようとしていたふるさと納税制度を、総務省自らが豪華な返礼品を自粛するように呼び掛け、ブームの火消し役を担ってしまったのだから、菅官房長官や総務省職員内には忸怩たる思いが燻る。