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劣勢続く自民党、“逆切れ”暴走の兆候も…“新型コロナ対策”と称して強権発動を懸念

文=林克明/ジャーナリスト
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「首相官邸HP」より

「殿のご乱心」と言うしかない事態が続いている。

 緊急事態宣言が出され国民が不自由な生活を送っている最中に自民党議員らは深夜の銀座クラブで飲食、菅義偉首相の長男・正剛氏らによる総務省幹部接待、元法務大臣の河井克行夫妻による大規模買収事件などに見られる数々の汚職・不祥事、“上級国民”の傍若無人な振る舞いが繰り返されている。

 新型コロナウイルス対策にしても、国内で最初の感染者が出てから1年3カ月たっても、有効な策を打ち出せていない。

 これらを受けて、さすがに今年に入ってからの地方選挙では自民党系候補が苦戦している(前回記事『菅政権、選挙連敗で窮地→逆切れの恐れも…自民議員の傍若無人&コロナ無策で国民が嫌気』参照)。特に4月25日の国政選挙の補選と再選挙での“自民全敗”は象徴的だ。10月頃までに実施される総選挙で、自民党が大打撃を受けて、世の中が良い方向に変わるのではないかと観測する向きもある。

 だが、追い詰められた者の“ちゃぶ台返し”もあり得る。最近の例では、ミャンマーの軍事クーデター、中国政府による香港民主化運動弾圧。歴史を遡れば、選挙で大幅に得票率と議席を減らした国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)で、ヒトラーが暴走して独裁色を強めた。

 違う時代や違う国で起きてきたことを現代日本に当てはめるのは荒唐無稽、と考えるのは自由だ。しかし、権力を動かす人たちは狡猾なので、一般市民にそれと気づかれずに、まったく違う手法によって、「ちゃぶ台返し」「逆切れ」するかもしれない。

 そう考えれば、外国で起きていることや過去の歴史に学ぶことは、私たちの身を守ることになるのではないか。

総選挙で負けて逆切れのミャンマー軍事クーデター

 選挙で負けてちゃぶ台返しといえば、今年2月1日に起きたミャンマーの軍事クーデターが記憶に新しい。

 昨年11月18日に総選挙が実施され、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が上下両院で396議席(議席率83.2%)を獲得して圧勝。前回の390議席を上回り、民意は示された。

 ミャンマーでは、1962年にネ・ウィン将軍率いるクーデターで実権を握って以降、のちに形式上は民政移管したものの、実質的には軍部による政治支配が続いている。ミャンマーは法律上、議員の4分の1は国軍最高司令官の推薦による現役軍人が就任する。したがって民間に割り当てられた議席のうち3分の2以上を獲得しないと、ひとつの政党で過半数を超えることはできない。そんな悪条件でも、2回の総選挙でNLDは大勝利して軍勢力は惨敗を喫した。

 すると国軍は、選挙に不正があったとしてクーデターを起こし、抵抗する国民を虐殺し続けているのだ。

 視点を香港に移す。幾度となく大規模デモが起き、ついに鎮圧されたことは誰でも知っているだろう。

 2003年、中国当局に反対する言動や表現活動を規制できる国家安全条例を、香港で制定しようという動きに対し、香港市民は大規模な抗議行動を実施した。市民の力が条例案の採択を延期させたのである。これが、21世紀の香港大規模デモの第一波だ。

 2014年には選挙法をめぐる反対デモ、2019年は容疑者引き渡し条例に反対する大規模デモ、翌2020年は反政府的言動を取り締まる香港国家安全維持法に反対する巨大デモが起きた。しかし、同年6月30日に香港国家安全維持法が可決されて以降、香港の市民運動は沈黙を余儀なくされている。市民が国家権力にたてついてきたことに対する意趣返しといえるだろう。

究極のちゃぶ台返しは、選挙で敗北したヒトラー

 他方、1923年のミュンヘン一揆に失敗してからのナチ党は、選挙を重視して急速に有権者の支持を獲得していった。

 1932年7月31日(ヒトラー首相誕生の6カ月前)の国会選挙で、ナチ党は得票率を18.25%から37.2%へ、107議席から230議席へと大躍進して第一党となり、勢いづいた。とはいえ、全議席608に対し230議席だから絶対的な力は発揮できない。しかし、急激な支持の高まりにより、次期選挙で絶対多数を獲得できるのではないかという観測も生まれた。そして3カ月あまり後の同年11月6日、選挙戦になだれ込んだ。

 ところが、勝負をかけたこの選挙でナチ党は得票率を4.18ポイント減らし33.09%、得票数も約200万票減らし、230議席から196議席(このときは全議席584)に後退。第一党の座は保ったものの、直前までの飛ぶ鳥を落とす勢いからすれば敗北といえるだろう。

 ナチスにつぐ第二党は、社会民主党121議席、第三党は共産党100議席だった。共産党は毎回、選挙で着実に議席を伸ばし、この選挙では首都ベルリンで得票率30%を超えて単独トップに躍り出た。

 選挙での後退に加えて、ナチ党自体の財政難、有力政治家離脱に伴う組織の弱体化などの事情があった。つまり、表面的には旋風を起こしているナチ党も、大きなマイナス要因を抱えていたのである。

 このような情勢下、右翼系・保守系の政治家や政党の複雑な駆け引きもあり、翌1933年1月30日、ヒンデンブルグ大統領はヒトラーを首相に任命した。

 ここから独裁完成までのスピードは驚異的だ。権力を握ったところで選挙を実施すれば、今度こそ絶対多数を獲得できるともくろんだヒトラーは国会解散を決め、投票日は3月5日とした。2月4日、憲法に定められた緊急時の大統領権限を利用し、「ドイツ国民の保護に関する大統領緊急令」を大統領に出させた。これにより、公共の安寧が脅威にさらされると当局が判断すれば、ストライキ、政治集会、デモ、印刷物の配布禁止と押収などが可能になった。

 そうなると、社会民主党や共産党は選挙キャンペーンどころか日常活動もままならなくなった。同時に全土でナチ突撃隊が反対勢力へのテロをエスカレートさせていった。混乱の最中の2月27日、国会議事堂放火という事件が勃発。証拠もない状態で、「共産党の陰謀」とのデマを喧伝し、翌2月28日に、いわゆる「国会炎上緊急令」を布告。この緊急令を根拠に、共産党の国会議員、地方議員、共産党幹部の逮捕、全支部の閉鎖、共産党系出版物の発行禁止などがなされた。

 こうして3月5日に国会議員選挙の投票日を迎え、ナチ党の得票率は43.9%に上昇、647議席中288議席を獲得する大勝利を収めた。

 駄目押しは、国会に諮らず政府が法律を制定できる「全権委任法」の成立である。事実上、国会機能がなくなるのだから、独裁が完成する。しかし、この全権委任法を成立させるには3分の2以上の国会議員の賛成が必要だった。本来なら可決できないはずだが、100名を超える共産党国会議員や社会民主党議員を逮捕(一部は国外に亡命)して討議にも投票にも参加させず、1933年3月23日に「非合法的に」成立した。

 大事なのは、国会選挙で敗北したことによる「ちゃぶ台返し」だったことだ。それも、ヒトラーが首相に指名されてから2カ月とたたないうちに、法治国家は完全に解体されたのである。

自民、逆切れの兆候は国旗損壊罪法

 今年に入ってからの自民党の地方議会・首長選では、千葉県知事選は自民系候補が100万票差で負け、山形知事選では相手候補の半分以下の得票など、大敗が目立つのだ。

 前述したようなミャンマーや戦前のドイツの例は、総選挙で負けたことに対する権力者たちの派手でわかりやすいちゃぶ台返しだが、日本の場合は一発逆転的な行動ではなく、手を変え品を変えて自分たちの生き残りを図る可能性が高いであろう。

 それらを予想するのは非常に難しいものの、ちゃぶ台返しというか、逆切れ的な兆候はすでに表れている。

 国旗損壊罪の新設を含む刑法改正案が、そのひとつだ。「自民党は26日、日本を侮辱する目的で日の丸を傷つけたり汚したりする行為を処罰できる『国旗破損罪』を新設する刑法改正案を今国会に議員立法で提出する方針を固めた」(1月26日付読売新聞)という。

「国旗損壊罪法」は、自民党が野党だった2012年に提出して廃案になっていたが、再提出の方針を固めたタイミングに驚く。緊急事態宣言下、営業時間短縮で多くの人が苦しんでいたときに、田野瀬太道、大塚高司、松本純の自民3人組(1月18日)と、公明党の遠山清彦議員が銀座クラブで飲食していた(1月26日)ことは記憶に新しいだろう。

 まさに、国民を侮辱し、政治と政治家を侮辱し、信頼を失墜させる行為を自民党の3人が行っていた時期だった。3人は議員辞職するどころか、彼らが所属する政党が市民を罰する道具の製造に着手したのだ(衆議院に問い合わせると4月21日現在、正式に提出されていない)。

 まさに、ちゃぶ台返しといえる所業である。ちなみに、公明党の遠山氏は議員辞職した。

人権とプライバシー制限の法案が目白押し

 もうひとつ、新型コロナ特措法改正時の流れを思い出していただきたい。

 自民党政府が提出した感染症法の当初案では、入院を拒否した者に1年以下の懲役または100万円以下の罰金。感染経路を割り出す積極的疫学調査を拒否する感染者に50万円以下の罰金を科すという内容だった。さすがに批判を受けて、コロナ犠牲者に刑事罰を科す内容は是正された。

 このほかにも、プライバシーと人権への配慮に欠けるデジタル化関連法案(デジタル監視法案)、少年法の厳罰化、難民申請中の外国人を強制送還させて生命の危機にさらす入管法改正など、人権やプライバシーを制限する法案が目白押しなのである。

 今後は、“新型コロナ対策”と称して強権を振るうことが、もっとも懸念されるところだ。現在、政府や自民党が劣勢に陥っていたとしても安心はできず、ちゃぶ台返しの可能性を念頭に置いておくべきだろう。

 心構えなしで地震が起きるよりは、あらかじめ想定して最低限の備えをしたほうが被害を確実に減らせるからである。
(文=林克明/ジャーナリスト)

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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