リクルート住まいカンパニーの運営する不動産情報サイト「suumo(スーモ)」で、『住みたい街ランキング2018(関東版)』が発表されました。このランキングでは「横浜」が1位となり、少々驚きをもって紹介されていました。
毎年、不動産情報を扱うさまざまなサイトで「住みたい街ランキング」が発表されますが、似たような地域が上位に出てくるケースもあれば、まったく異なる地域が上位にランキングすることもあります。
今回は、この「住みたい街ランキング」をどう見るといいのか、そして、実際どのように「住む街(駅)」を探したらいいのか、といったことを取り上げます。
統計情報は調査方法で結果が大きく異なる
さまざまなメディアで発表される「住みたい街ランキング」は、各社それぞれ異なる調査方法でランキングが決められています。インターネット上のアンケートの場合もあれば、自社サイト運営上のデータを集計した場合もあります。
そもそも統計データは、「いつ、誰を対象に、どのように」行ったかで大きく結果が変わってきます。
そこで、簡単にランキングを比較してみましょう。今回発表されたスーモの『住みたい街ランキング2018(関東・総合)』と、昨年のランキング、さらにLIFULLが運営する「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」が発表した『2018年住みたい街ランキング(首都圏版)』の上位10位をまとめたものが以下の表です。
結果だけを見ると、スーモの調査では17年と18年は、順位の違いはありますが同じような街(駅)の名前が挙がっています。一方、ライフルホームズのランキングでは順位も街(駅)も大きく異なります。
ここで、表のランキングの調査方法を見てみると、スーモは17年と18年では調査方法を変えており、さらにライフルホームズは調査方法がまったく異なります。簡単に調査方法を比較してみると、以下のようになります。
まず、スーモとライフルホームズでは、調査集計方法がまったく異なります。スーモでは単純に「住んでみたい街(駅)」を聞いた結果を集計している一方、ライフルホームズでは自社サイトの売買と賃貸に分けて問い合わせ件数を集計しています。
スーモのアンケート方式であれば、物件購入時の予算や賃貸物件の家賃の予算といったものに関係なく、単純に住んでみたい街(駅)を選ぶことになるので、純粋に住んでみたいと思う知名度の高い街(駅)が上位に挙がってくることになるでしょう。
一方のライフルホームズは売買賃貸とも予算の制約があるなかで、問い合わせした物件のある街(駅)となるので、スーモとはまったく異なった、どちらかと言えば実際に「買う」「借りる」といった行動を前提にした“現実味のある”ランキング結果になっているようです。
また、同じスーモの調査でも、今年と昨年では調査方法を変更しているため、果たして昨年と同じように比較していいのかは微妙です。今年のスーモの調査では、「横浜」が1位になったほか、「中目黒」「東京」「渋谷」が消え、「新宿」「大宮」「浦和」が上位10位に挙がってきました。
調査方法の具体的な変更点は、対象者の居住地の割り付けや件数、集計方法が変わっています。特に、今年は複数回答(1~3位)に点数を付けて集計するかたちとなったため、2位や3位が多くても上位になることが起こり得ます。
たとえば、10人から集計して、Aという街(駅)が1位を5人から獲得し、2位は1人、3位は2人、Bの街(駅)は、1位はなく、2位が9人、3位が1人という結果だった場合、Aは18点、Bは19点となります。スーモの昨年までの集計方法であれば、1位獲得数が多いAがBよりも上位になりますが、今年の集計方法ではポイントの高いBが上位になります。この例のようにして「横浜」が1位になった可能性が高いと思われます。
このように調査方法が変更されれば比較しにくくなりますが、スーモの調査報告でも「調査方法を変更しているために、2016年、2017年の得点や順位は参考値としてご覧ください」と注意書きが付されています。
1位は本当に「横浜」なのか
ここからは今年のスーモの「住みたい街(駅)ランキング」の結果について考えてみたいと思います。
今年は「横浜(駅)」が1位となりましたが、ランキングトップとなった理由について、スーモジャーナルでの考察は、横浜駅の「利便性」でした。横浜駅は6社(局)が乗り入れる神奈川県最大のターミナル駅のひとつで、確かに都心部へのアクセスも非常に便利です。しかも、駅周辺には商業施設が充実し、買い物で困ることもありません。さらに、横浜駅周辺には事業所もたくさんあり、横浜駅自体が主要な勤務先でもあります。
調査では“駅”を“街”と捉えて調査されていますが、不動産業界に携わる者として「横浜駅」を最寄りとする住宅として思い浮かぶのは、横浜駅東口に林立するマンション群と鶴屋町や平沼といった古くからある住宅街を連想します。横浜駅西口の広範囲と東口隣接地域は、東口のマンション群を除くと駅周辺は商業エリアであまり住宅がありません。
個人的には、今回のランキングで1位となった「横浜」は、イメージ上の“総合横浜エリア”ということではないかと考えています。2位の「恵比寿」や3位の「吉祥寺」と比べれば、はるかに広範囲にわたる複数駅を含んだ「横浜」が1位になったのだろうということです。
そう考えた理由のひとつは、同時に発表された「住みたい自治体ランキング」の結果です。住みたい街(駅)ランキングでは1位だった横浜駅のある横浜市西区は17位で、トップ10には出てきません。一方、総合11位に横浜市中区が挙がっており、神奈川県ではトップの自治体となっています。実はこの横浜市中区に神奈川県庁、横浜市役所などを中心に事業所が集中し、さらに山下公園や横浜赤レンガ倉庫、横浜中華街などの人気観光スポットも存在しています。
つまり、多くの方が持つ「横浜」のイメージは、この横浜市中区に近いのです。横浜市中区の駅をいくつか挙げてみると、JR根岸線「関内駅」「石川町駅」「山手駅」、みなとみらい線「馬車道駅」「日本大通り駅」「元町・中華街駅」、横浜市営地下鉄線「関内駅」「伊勢佐木町駅」「阪東橋駅」、京急線「日ノ出町駅」などです。
ここからは推測ですが、自治体に関するアンケートの結果からは、本来であれば上記の駅がランキング上位に出てきてもいいのですが、住みたい街ランキングで答えた方のイメージする「横浜」を代表して、もっとも知名度の高い「横浜駅」が選ばれた結果がランキング上位に挙がった要因だろうと思われます。
どうしても観光地ランキングなどもそうですが、“地名”に絡むアンケートでは、知名度の高いところが上位に挙がってきます。知らない地名(今回は「駅」)は挙がりにくいものですから、住みたい街(駅)ランキングで「横浜駅」が上位に挙がって来るのはある意味では当然の結果ではないかと思われます。
また、本稿を書くにあたって、参考として12年にスーモが実施した「住んでみて良かった街(駅)ランキング」も見てみたのですが、くしくもそのランキングの1位も「横浜」でした。そこで少し気になったのは、そのランキングを飾る写真です。横浜中華街、みなとみらいの写真がイメージとして貼られていました。中華街の最寄り駅はJR根岸線「石川町」駅またはみなとみらい線「元町・中華街」駅、みなとみらいは「みなとみらい」駅またはJR根岸線「桜木町」駅です。つまり、「横浜駅」ではないのです。はっきりとは言えませんが、これらの写真が示すのもやはり“イメージの横浜”でしたので、この考察を裏付けているような気がします。
何を参考に街や路線(駅)を選ぶとよいか
分譲・賃貸を問わず、住宅を探す際、自分が新しく住む街(駅)として何を参考にして、何を重視したらいいのかについて解説したいと思います。
上述したような、さまざまなランキングも家を探す際には参考になりますが、本来参考にしたいのは「住んでみて良かった街(駅)」のほうです。「住んでみたい街(駅)ランキング」で上位だった街に住んでみたら、思っていたより生活が不便だったということも起こります。
たとえば、恵比寿駅は、山手線沿線で地下鉄駅もあり、通勤には非常に便利です。これは間違いありません。友人などに話すとき、「恵比寿に住んでいる」と言えば、誰もがわかる駅ですしステイタスにもなります。ただ、物価の高いエリアでもあり、マンションを買うにしろ、借りるにしろ住宅費は高くなります。さらに、食料品など日常の買い物もそれなりに高価格になってしまいます。食料品などの物価には、店舗の賃料なども反映されるためです。少々無理して恵比寿に賃貸住宅を借り、その分、食費を抑えようとしても抑えにくいのです。
その点、スーモ「住んでみて良かった街(駅)ランキング2012」で出てきた街(駅)は、2位「吉祥寺」、3位「中野」、4位「町田」、5位「三鷹」となっており、6位以降も上位は都心部の山手線沿線ではなく、周辺沿線の街(駅)でした。このランキングのほうが現実の生活を考える際には参考になるように思います。
普段の生活でどこを重視するか
住宅を選ぶ際に重要なのは、予算に余裕のある方は別にして、限られた予算の中で自分が「どこを重視するか」です。どこかを偏って重視すると、その分どこかを我慢することになります。たとえば、仕事で夜が遅いので、とにかく都心近くの交通利便性を求めるのか、交通利便性を少し我慢して生活費を重視して物価の安いところ探すのか、その両方のバランスを取るということもあるでしょう。
前述した「住んでみて良かった街(駅)ランキング」の上位は、この“両方のバランス”が取れた街(駅)が挙がっているようです。
ランキング上位でなくても住みやすい街(駅)
ここでも少し、「住んでみて良かった街(駅)ランキング」が参考になるのですが、このランキングの上位の街(駅)におおよそ共通していることは、活気のある“商店街”です。たとえば、2位の「吉祥寺」には吉祥寺サンロード商店街と吉祥寺ダイヤ街、3位の「中野」には中野ブロードウェイがあります。
都心に近い立地でも、商店街が発達した地域は昔からある住宅街であり、生活の場としては実績のある地域といえます。暮らしやすさという点では、すぐ近くで買い物ができ、物価も比較的安い点で優れています。ランキング上位の活気ある商店街のある地域も都心に近い分、住宅の価格や賃料はそれなりに高いのですが、商店街では昔からそこに土地を所有し、住みながら営んでいる店舗も多く、物価に賃料が反映されにくいということがあります。
もし、“普段の生活”という視点で探すなら、昔から活気のある商店街のある地域を選ぶというのも「住みやすい街(駅)」を探すポイントのひとつになるといっていいでしょう。
考え方の見本として、前述の「住んでみて良かったランキング」には出てきませんでしたが、テレビでもよく登場し、人気も知名度も高い「戸越銀座商店街」のある、都営浅草線「戸越駅」、東急池上線「戸越銀座駅」も住みやすい街(駅)といえると思います。商店街を目安として住む街(駅)を探すなら、「人気の商店街ランキング」なども参考になるでしょう。ただし、なかには、麻布十番商店街のような古くから商店街が充実しつつも、場所がら、物価がそれなりに高いところもあるのは“ご愛敬”です。
(文=秋津智幸/不動産コンサルタント)