千葉県の熊谷俊人知事は27日、定例会見で「地域住民の安全安心を最優先に考え、すべての区間で聖火ランナーの走行を中止する」と発表。同県内の聖火リレーは7月1~3日に予定されていたが、無観客の点火セレモニーに変更する方針を示した。首都1都3県で初となる「聖火ランナーの走行全面中止」は初の事例で、最近議論を巻き起こしている「自治体の聖火リレーの取り扱い」に一石を投じることになった。
一方、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は観覧の自粛を求めながらも、スポンサーの意向を重視した「当初計画通り」の運営を推し進めているようだ。対応を迫られる自治体の苦悩は深まっている。
埼玉・宮代町では町内小中学生が聖火ランナーを応援
東武動物公園で知られる埼玉県宮代町。同町は隣接する杉戸町と合同で「聖火リレー歓迎企画」を準備している。「町独自盛り上げ施策」として、ランナーが走る7月7日に町内児童・生徒を沿道に配置した上で「応援」を行うほか、中学校吹奏楽部の演奏、町長による歓迎挨拶などを実施する予定という。
上記の計画を当編集部に連絡してきた町民は「千葉が全面中止にしているなか、あり得ない。実施するにしても観覧の自粛ないし無観客は当然の流れのはずなのに、なぜ子どもたちを動員するのか理解に苦しむ」と憤る。一方、同町教育推進課の担当者は次のように話す。
「組織委員会さんに承認して頂いているのは確かにそうした内容の計画です。準備は進めさせていただいています。一応、予定はしていますがコロナの感染状況は予断を許さない状況ですので、これから実施にあたっては検討します。お子さんの観戦対策はしっかり行います」
ある埼玉県議は「一度組織委に提出し、承認を得た計画を変更するとなると組織委が難色を示すらしく、宮代町だけではなく、どこの自治体も苦労している」と背景を語る。別の埼玉県議は「このコロナ禍で、通常時と同じように集団行動ができるのはもう小中学生しかいない。子どもたちに良い経験をさせてあげたいとは思いますが……」と言葉を濁した。
神奈川・サポートランナーの中学生にアシックス製品着用?
地元の子どもたちの聖火リレーへの動員計画は埼玉に限った話ではないようだ。「しんぶん赤旗」(日本共産党中央委員会)は28日付紙面で記事『聖火リレーに中学生を動員 アシックス製品着用を強要』を掲載。神奈川県藤沢市が市内の中学生を対象とした「サポートランナー」の参加者を募集していることに関し取り上げた。
記事によると、同市教育委員会は各校1人選出することを要請。留意事項として、参加する中学生は「東京2020オリンピックゴールドパートナー」であるアシックス社製品の服、帽子、靴を着用するか、他社製品のロゴマークがないものを使用することなどを求めているのだという。当編集部が記事の事実関係の確認を藤沢市教育委員会教育総務課に問い合わせたところ、次のように語る。
「確かに東京オリンピック・パラリンピック開催準備室と連名で、市内の中学校などにサポートランナー各校1人の選出をお願いする文書を送付しましたが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況下ということもあり、あくまで任意です。強制的なものではありません。
当日生徒が着用する服装のロゴに関しては、学校で使用ジャージなどを着用する場合には、あからさまに他社メーカーさんのロゴなどが全面に出ているものを見えないようにしていただきたいという趣旨です」
聖火リレーを中止するのか、はたまた実施するのにあたってどのように行うのかをめぐる騒ぎは当面収まりそうにない。大人たちの都合で子どもたちが振り回されたり、健康上の危険が生じたりすることだけはないよう、心から願いたい。
(文=編集部)