東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が、今夏の大会を無観客開催とした場合でも競技会場に子供たちを招待する案を検討している――そんな情報が18日、飛び込んできた。スポニチアネックス(スポーツニッポン新聞社)は同日、独自記事として『東京五輪・パラ 無観客開催でも子供たちを競技会場に招待するプラン検討』を公開。組織委関係者が「無観客でも、子供たちだけでも会場に招待しようという案が有力となっている」と話していることを報じた。
これまで組織委は東京都や東日本大震災の被災地の小中校生を対象に、自治体や学校単位で五輪・パラ合わせて約130万枚のチケットを割り当てようとしていた。記事によると、組織委内では「無観客開催でチケットが無効となっても、子供たちには観戦機会を提供する議論が始まった」(原文ママ)のだという。
五輪を無観客で実施するかどうかについては、開催まで70日を切った今でも決まっていない。一方、小中学生の五輪観戦に関しては4月30日、ハフィントンポストが記事『小中学生ら81万人を「動員」、拒否で欠席扱いは本当?東京五輪の観戦計画、東京都教委に聞いた』を公開。東京都教育委員会が児童・生徒らの観戦拒否を欠席扱いにするかどうかは「校長の判断」との見解を示し、物議を醸したばかりだ。
緊急事態宣言下の運動会実施要請は五輪招待への布石?
ちょうどスポニチの記事が公開された18日、萩生田光一文部科学相は閣議後記者会見(下動画8:56から)で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が発出されている小中学校の運動会に関して記者に問われ、以下のように語った。
「運動会や体育祭などの学校行事は子どもたちにとってかけがえのない貴重な思い出になる行事だと思います。また学習的な効果も大きいと思います。
(中略)
直ちに中止ではなくて、日程を変えて、春の行事を秋に移していただくような去年と同じような試みをしていただきたい。いろんな工夫をして、私の地元では1日の予定を半日に切り替えて、種目を絞ってそれでも実施したとか、平日に開催したとか、いろんな工夫をしている報告をいただいている。ただちに中止ではなくて、実施方法の変更も含めてぜひ、やる可能性をそれぞれの現場で模索していただきたいなと思っています」
運動会などの学校行事の中止は貴重な教育機会の喪失になる。また、巣ごもりに伴う子どもたちの体力低下も社会的な課題だろう。一方で、全国紙教育担当記者は次のように文科相の発言の背景を次のように見る。
「“運動会”を“五輪”に置き換えるだけで、菅義偉首相や政府幹部がこのところ繰り返している発言とほぼ同じ“構文”になります。旗は振るけれど、最終的に現場の努力に期待するという部分も共通していると思います。
各地で緊急事態宣言が発出される中、通常通り運営されている小中学校は、政府にとって、五輪などの施策に利用しやすい対象だと思います。『緊急事態宣言下でも学校の運動会を実施できた』という各学校の努力の積み重ねが、『五輪に小中学生を招待しても大丈夫』などと拡大解釈をされなければいいのですが。
最近、組織委は各報道機関に意図的なリークを繰り返しているようです。そもそも小中学生招待プランは、肝だったアスリートやボランティアとの触れあいが事実上不可能になった時点で、当初の意義を失っています。無観客にするのなら『五輪の熱気』を感じることもないでしょう。不要なリスクを子どもと教員に課すだけのように見えます」
文科省関係者は次のように声をひそめる。
「ここのところ首相官邸と橋本聖子組織委会長から『オリ・パラ教育』の一層の推進を促すよう、担当部局への根回しが日に日に強くなっています」
政府や組織委の五輪開催に向け、なりふり構わない水面下での動きが活発化しているようだ。いずれにせよ学校教育と「オリ・パラ教育」は明確に分けて考える必要があるだろう。
(文=編集部)