今クールの連続テレビドラマ『ドラゴン桜』(TBS)が好調だ。同作は2005年に阿部寛主演で放送され、最終話は平均視聴率20.3%を記録した大ヒット作で、今作はそのシーズン2という位置づけになる。第1話は平均視聴率(世帯)14.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と好スタートを切り、以降、2桁をキープしている。
ストーリーは、偏差値32の私立高校が教育内容にメスを入れて、1年後に東京大学合格者の輩出を目指すという内容だが、こんな夢のようなサクセスストーリーは現実にあり得るのだろうか。そこで今回、東京大学医学部6年生で、『現役東大生が教える超コスパ勉強法』『東大理Ⅲ スピード読書術』の著者でもある佐々木京聖さんに話を聞いた。
佐々木さんは1996年福島県郡山市生まれ。名門進学校の県立安積高校を卒業後、一浪して東大理Ⅲに入学した。家庭教師として東大理科Ⅲ類(医学部)合格者も輩出した。来年3月に卒業したのち、4月から初期研修医として臨床現場に入る予定だ。
「『ドラゴン桜』にある偏差値32ですが、これは一般模試の偏差値なのか、東大模試の偏差値なのか特定されていません。一般模試と東大模試では偏差値の基準が異なります。東大志願者が受ける東大模試の32なら、決して低いとはいえません」
そう前置きして、佐々木さんは「どの学部をめざすかで違いはありますが、どのような人でも東大合格を目指すことはできます。正しい勉強法を身につければ、ある程度のレベルまで成績は伸びるのです」と切り出した。
しかし、その前提として地頭の良さが必要ではないのか。たとえ勉強を怠っていて成績が悪くとも、地頭が優れていれば本格的に勉強に取り組みだして、ほどなく成績の伸びが加速するだろうが、地頭に恵まれなければ足踏み状態が続くのではないのか。この見方を佐々木さんは否定する。
「地頭力は先天的なものに思われやすいのですが、後からでもつけられます。毎日コツコツと勉強していれば、地頭が悪いと思われていた人でも、考え方のフレームを身につけることができます」
合格最低点を狙うという発想
ただ、これだけでは東大合格に相当する学力には届かないだろう。佐々木さんは「ある程度のレベル」とも言うが、偏差値ランクごとの学力基準をMARCH・早慶・東大の3段階に大別した。
まず基礎学力さえ身につければ、MARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)なら合格できる。早稲田大学と慶應義塾大学をめざすなら、プラスして難易度の高い問題集に取り組めばよいという。
では東大はどうか。佐々木さんは、同じ東大受験でも、合格順位に着目する。上位合格をめざすことはハードルが高いが、たとえ下位合格でも東大生というライセンスを手に入れられる。そこで、合格最低点を狙う作戦を選ぶ道もある。
東大の場合、理Ⅲを除けば、二次試験で440点満点のうち約220点を取れば、合格できるといわれている。だが、佐々木さんが教えている学習塾に通う生徒の保護者は「東大に合格するためには、どんな問題でも解けなければいけないのでしょう?」と問いかけてくるそうだ。ここで大切なのは選択と集中である。
「220点を取ればよいという前提に立つと、解けなければいけない問題は結構限られてきます。東大に合格するには難しい問題をたくさん解けるようにならなければならないと思われていますが、そうではありません。誰でも解けるような簡単な問題を確実に解けば、220点を超えるのは難しくありません。その考え方に変えられるかどうかだと思います。たとえば研究者は答えのない問題に取り組みますが、大学受験には答えがあるのです」
では佐々木さんは、どんな方法で東大をめざしたのだろうか。佐々木さんの出身校である安積高校は名門進学校だが、過去3年の東大合格者数は、2019年に6人、20年に4人、21年に4人。東大合格者数でみた場合の高校ランキングでいえば上位常連校というわけではない。
現役時代の佐々木さんは、市販の合格体験記を読み、オススメの問題集を次々に買って片っ端から解いていったが、模擬試験の点数に結び付かず、1回目の東大受験は不合格に終わる。浪人中は駿台予備学校仙台校に通ったが、駿台に入る前の1週間に勉強の仕方を振り返ったところ、演習問題の数はこなしたものの、1問1問を深く考えていなかったことに気づいたという。佐々木さんは改めて合格体験記を読み、合格者たちが戦略的に勉強したことを知って、すべてのタイプの問題が解ける必要はないことを理解。勉強法は自分で模索したという。
「ある方法で1週間勉強して成果が出なかったら、別の方法に切り替えて勉強しました。トライ・アンド・エラーを繰り返したのです。最初に“こうやったらいいんじゃないか?”という仮説を立てて、うまくいけばそのまま続け、うまくいかなければ原因を考えて修正しました。それから予備校のチューターの先生に相談しました。チューターの先生は各科目の先生ほど教科内容に詳しくはありませんが、メンタルの問題も含めてなんでも相談に乗ってくれて、話をしているうちに僕の考えが整理できました」
3つの原則
東大合格の原則を整理しておこう。佐々木さんは次の3点を挙げる。
第一に、正しい情報を収集すること。どうすれば学力が向上するのか。東大に合格するには、どんな参考書を読んで、どんな問題を解けなければならないのか。こうした情報を収集できれば合格に6~7割は近づいているという。
その手段は合格体験記を読むこと。それから今はコロナ禍で難しいが、現役東大生の生の声を聞くこと。佐々木さんは高校1年のとき、教諭の引率で、希望する生徒たちと共に東大の文化祭を見学に訪問。キャンパス内で身分を名乗ったうえで、東大生に「どんな勉強をしたらよいのか?」と次々に聞いて回ったところ、誰もが親身にアドバイスしてくれたという。
第二に、自分の学力レベルに合った勉強から始めて、コツコツと積み重ねること。たとえば東大合格者が使っていた参考書も、今の自分の学力に合致していなければ、使っても成果は期待できない。ここで大事なことは、自分の弱点から目をそらさないことである。目をそらしてしまうと基礎学力が身につかず、応用問題の解答力が伸び悩んでしまう。
第三に、メンタルをコントロールすること。たとえ合格ラインを超えていても、受験の本番で頭が真っ白になってしまい、実力を発揮できずに不合格に終わってしまうケースは少なくない。大事なことはリスクマネジメントである。「本番でこんなことが起きたら、どう対処するか」とさまざまな場面を想定し、対応策を考えておき、模擬試験で試しておくのだ。
たとえば数学の最初の問題がすぐに解けそうもなければ、その問題を飛ばして2番目の問題から解いていく。すると冷静になれる。あるいは英語のリスニング試験では、スピーカーが英国訛りで聞き取りにくいことが多いので、最初に問題文をじっくりと読み、聞き取るべき箇所を集中的に聞く。
佐々木さんは以上3つの原則を、合格体験記を読んで導き出したという。正しい戦略に基づいて実行できるかどうかが、重要なのかもしれない。
(文=編集部)