折から、トランプ政権は中国への関税強化政策を発表したわけだが、その点に関しては「反動も大きいはず。中国からの輸入品への課税は500~600億ドルに相当する。かつて中国が日本へレアメタルの輸出禁止措置をとったことを想起させる。中国の対米制裁もありうる。ノルウェーや台湾も経済面で影響を受けている。オーストラリア、日本、アメリカも同じといえる」と言う。
アメリカにとっての脅威は多様化
こうしたアーミテッジ氏の発言を受け、参加者の間で活発な議論が展開された。
「アメリカ政府は中国を敵対国と認識している。習近平は毛沢東の神格化を自らに当てはめるのであれば賢明な方向とはいえないだろう。なぜなら毛沢東は独裁化で失敗したからだ。ひとりで決定することのリスクはあまりに大きい。失敗が許されないわけで、余裕のない政治は危険極まりない。そんな中国とどう向き合うのか」
「アメリカにとっての脅威は多様化している。人種問題、ロシアや中国、不可解な北朝鮮、収まる兆しの見えないテロ等々。真の脅威は何か? 脅威を峻別する必要がある。思えば、第二次世界大戦や80年代の冷戦時代はより深刻だった。国家の存亡がかかる危機的状況に世界が飲み込まれた。翻って、現在は中国の脅威といっても、軍事的能力はあるが、攻撃の意図はないわけで、それほど危機が迫ったとも思えない。ロシアも同様だ。ISISは唯一、反米という強固な意図を持つ存在だが、攻撃能力には限りがある。よって、優先順位をつけ、右往左往することはない」
別の見方もあった。
「トランプ政権のアジア政策には優先順位はあるのか。『ツイート外交』では限界だろう。大声で叫ぶ『サウンド外交』よりはましといった程度。TPPからの脱退は失敗としか言いようがない。最悪の決定だった」
こうした見方は大方の賛同を得たようだ。
「北朝鮮の金正恩との核ミサイルボタンの大きさを競うようなことも無意味。ティラーソン国務長官の解任はじめ、スタッフ不在状態は深刻である。歴史的観点から見れば、トランプの対応は失敗の烙印を押されることになるだろう。日本との関係強化のみが評価に値する」
マティス国防長官がカギ
すると、日本との関係の深い参加者からの発言が相次いだ。
「先週、河野外相と会談した。きたる米朝首脳会談では核ミサイル問題に加え、拉致問題を提示してほしいとの要請があった。安倍首相はスキャンダルで苦しい立場のようだ。しかし、9月の総裁選を乗り切れば、戦後最長の首相になる。ただ、現状では安倍・金正恩会談は実現するのかと問われれば、難しいと答えざるを得ない。北朝鮮情勢は日々動くが、安倍政権はついていっていない」
中国の動きも注目を集めた。
「一帯一路の行方に関心がある。中国、ロシア、中央アジア等の連携が追求されているからだ。また、アメリカの対中経済圧力(関税強化)は成功するのか。大いに疑問だ。今回の決定で、台湾も圧力を受けることになる。アメリカや世界の市場も厳しい反応に終始している。日本も含め、各地で株価が急落することになった。中国の反発と反撃は無視できない。ノルウェー、スリランカ、カンボジア等での中国の動きも不穏だ」
「アメリカが中国を軍事力で破壊することはあり得ない。あくまで外交重視で臨むべきである。ポンペオ新国務長官は政治家で、スマートな人物だ。インテリジェントだが、軍事選択の可能性も柔軟に使える才覚の持主である。ティラーソン前国務長官はバランス感覚に欠けた。これからはマティス国防長官がカギを握るはず。長期的視点から、北朝鮮の政権交代の可能性を検討すべき。金正恩の意図は計り知れない。軍事的対応では被害も大きく、自殺行為になりかねない。その意味では、先制攻撃はあり得ない。あくまで経済制裁の強化に注力すべし。南北対話は前向きなスタートだ。韓国はよくやった。在韓米軍は絶対に必要で、その存在を前提に有利な交渉を図るべき。日本による経済制裁も有益である」
金正恩は中国の影響力を懸念
ここで韓国からの参加者が口を開いた。
「文在寅大統領は2007年からケソン工業団地を通じて太陽政策を推進した人物。かつてのニクソン訪中のごとく、選挙で勝利するために北朝鮮との対話と融和を求めた。アメリカと韓国の同盟をベースに日本や台湾へのアプローチを模索している。外交の弾力性を追求する立場だ。中国は北朝鮮への支配を強化しようとしており、金正恩は中国の影響力を懸念している。叔父を殺害したのもそのためだろう。もちろん、アメリカの軍事力にも恐れをなしている。また、韓国の文化攻勢(映画、TV、音楽)も精神汚染として反発している。中国の影響で国内の資本主義的動きが強まることを警戒しているはずだ。なぜなら国内の不安定化要因との受け止め方をしているためである」
アメリカの元大使からは、次のような発言があった。
「安倍・トランプの信頼関係は極めて重要だ。トランプ政権は中国、台湾、韓国とも交渉を継続し、多角的な対話のチャンネルづくりに腐心している。しかし、韓国への関心が低いのが気になる。FTA、ホストネーションサポートの在り方が米韓同盟の試金石である。日韓関係にも常に暗雲が立ち込める。韓国もアメリカも国内が分裂し、分断国家となりつつあるのが問題だろう。国内的な和解が課題だ」
別の見方も出された。
「北朝鮮は韓国、アメリカとの首脳会談の前に交渉カードの手の内を明かさないだろう。米朝首脳会談も開催の可能性は五分五分だ。共にトップダウン型の指導者。問題は、米朝首脳会談にこぎつけ、なんらかの合意に達したとしても、その内容をトランプが実行できるかどうか。議会の反対等で実行できない場合もあり得る」
すると、次のような意見も。
「非核化に合意した場合の検証方法が重要になる。IAEA(国際原子力機関)の査察は当然だが、加えて、核兵器の廃棄をどう実行するかである。ロシアに移送し、廃棄処理するのが一案だろう。その場合、どうしても時間がかかる。途中で中断の憂き目に会う可能性も出てくる。何が起きるか予断を許さないのが現状だ。と同時に、北朝鮮の経済が発展するのかどうか。その点が重要となる」
北朝鮮に対しては硬軟取り混ぜた対応が不可欠
締めの発言を行ったのは日本人参加者。
「安倍首相のトランプ大統領との首脳会談も、金正恩との初の日朝首脳会談も国内政局の影響を受けざるを得ない。森友スキャンダル、財務省の文書改ざん問題の行方など、前途多難である。日本人拉致問題もアメリカ頼みでは進展の望みは薄い。日本が主導権を発揮できるとすれば、北朝鮮国内の資源開発であろう。これはジョー・ベイシー米海軍少将の遺言でもある。アメリカ、中国、ロシア、韓国を巻き込んだ資源開発計画で核放棄を促し、経済的自立と繁栄を保証する。北朝鮮に眠るレアメタル等の資源は7兆ドルとも、30兆ドルともいわれる価値がある。日本には現地調査、試掘のデータがあり、アメリカの鉱山協会がロックフェラー財団の協力で確認した内容と連動させれば、大きな可能性が開かれる」
以上のように、北朝鮮の脅威に対しては硬軟取り混ぜた対応が欠かせないだろう。中国もアメリカも水面下での交渉に動いている。日本とすれば、こうした関係国の動きを把握した上で、北朝鮮がノーと言えない交渉カードを切るタイミングを見極める必要がある。先日他界したベイシー海軍少将も「未開発の地下資源を活かすことができれば、北朝鮮の経済は飛躍的に伸びる」と分析していた。戦争を回避するためにも、金正恩の決断を促す材料を切り出す時であろう。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)