朝鮮半島をめぐる動きが急速に活発化している。去る3月下旬、北朝鮮の金正恩労働党委員長が電撃的な北京訪問を行い、中国の習近平国家主席との首脳会談に臨んだ。これには世界が驚いた。中国メディアの報道によれば、習主席は金委員長に対し「今回の訪中を歓迎し、その労を多とする」と語ったとのこと。
要は、「朝鮮半島の未来を決定づける力は中国にある」という存在感をアピールしたわけだ。南北首脳会談や米朝首脳会談を間近に控え、若き指導者は自らの父親が歩んだ道を踏襲し、最大の保護者でありうる中国に敬意を表し、韓国やアメリカとのトップ会談の前に習主席の後ろ盾を得ようとしたのである。
これは、中国にとっても「渡りに船」であった。なぜなら、北朝鮮の核放棄と朝鮮半島の非核化の実現を目指すアメリカのトランプ大統領に対して、「中国の関与なくして非核化はありえない」というメッセージをぶつけることになったからだ。中国政府は金委員長一行の北京到着を待って、ワシントンにもその旨を伝えている。
ところが、日本政府は安倍晋三首相も河野太郎外務大臣も「報道で知って驚いている。中国から詳しい説明を聞かなければならない」と発言し、自らの情報収集能力の欠如を世界に明らかにしてしまった。これでは中国からもアメリカからもスルーされてしまうだろう。慌てた日本政府はトランプ大統領との日米首脳会談をこなした後、安倍首相の平壌訪問の可能性を探ると言いだした。
これでは、北朝鮮の思うつぼである。中国はアメリカのみならず、北朝鮮とも水面下で取引を重ねた上で、日本を外した朝鮮半島の未来図を描こうとしているフシがある。そうした中国の強かな外交戦略の先を読まなければ、拉致問題をはじめ日朝関係の打開は難しくなる一方である。
日本人拉致被害者の会では「今回が最後のチャンス」と受け止め、安倍首相に拉致被害者の救出にアメリカの力を最大限に引っ張り出してほしいと要請した。実は、これまでも中国が仲介役となり北朝鮮との間で長引く日本人拉致問題の解決への提案があったにもかかわらず、歴代の日本政府は中国からの申し出を「お金目当てに違いない」と、ことごとく無視してきた。今回はトランプ大統領の交渉能力に期待するというわけだ。