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激しい倦怠感で日常生活に支障、「慢性疲労症候群」の可能性…病院でも理解されず悪化も

文=林美保子/フリーライター
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「Getty Images」より

 今まで一部の人が患う難病ととらえられてきた「慢性疲労症候群」(別名・筋痛性脳脊髄炎)が、新型コロナウイルスの感染拡大によって私たちに身近にもなってきている。ウイルス発症者の後遺症として、数カ月にわたって激しい倦怠感や体の痛み、発熱、息苦しさなど慢性疲労症候群に似た症状に苦しむ人が国内外で多くいることが明らかになっているのだ。

 欧米ではすでに、新型コロナウイルスが慢性疲労症候群の引き金になる可能性があると多くの専門家が警告しており、研究も始まっている。

“怠け者”や“精神疾患”と誤解される

 そもそも、慢性疲労症候群とはどんな病なのか。「NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会」によると、国内に10万人の患者がいると推定されているそうだ。にもかかわらず、日本では欧米に比べて認知度が低く、専門医も少ないのが現状だ。

 山梨県に住むA子さん(34歳)が体調を崩すようになったのは、21歳のときだった。極度に疲れやすくなり、仕事を終えて帰宅しても体が鉛のように重く、シャワーを浴びる余力も残ってなかった。健康体であれば、このような場合には十分な休養をとれば回復する。しかし、A子さんの場合には一向に回復しないどころか、激しい倦怠感はますます深刻になっていった。

「体が動かないんです。起きているのがつらいので、横になっているしかありません」

 翌朝になると、無理やり体に鞭打って仕事に出かけるのだが、次第にそれもできなくなり、働くことを断念せざるを得なくなる。

 25歳のとき、生活保護を申請した。申請は通ったものの、検査をしても体の異常が見つからないため、福祉事務所には「怠けているのではないか。または、精神的な疾患ではないか」と疑われた。ある日、ケースワーカーと保健師がやってきて、車に乗せられた。たどり着いたのは精神科病院で、医師と看護師がA子さんを待ち構えていた。診察室に連れて行かれ、注射を打たれそうにもなった。

「統合失調症と思われていたようです。そこで暴れたり、パニックを起こしたりしたら、注射を打たれて、そのまま入院させられたのかもしれません」

 医師の診断は、「就労可能」。A子さんは不信感を持ち、別の心療内科に転院する。「めまいがひどい」と訴えると、抗うつ剤を処方された。

「でも、かえって不安が増して悪化してしまいました」

 次には漢方薬を処方されたが、症状が上向きになることがなかったため、通院をストップした。

 2019年11月、インターネットテレビ番組を観て驚いた。その番組に登場した慢性疲労症候群という病気を患う患者の症状が自分のケースと酷似していたのだ。発症から10年以上たって、やっと一条の光が見えた気がした。A子さんは専門医のいる病院を探して、現在通院中だ。

後遺症に悩む326人にうち、少なくとも5人が慢性疲労症候群に

 慢性疲労症候群と聞くと、「疲労が長く続く症状であり、休養すれば治る」と思われがちだが、実状はもっと深刻だ。極度の疲労感や倦怠感、全身の痛み、睡眠障害、思考力・集中力の低下などの症状がある神経系疾患で、日常生活に支障を来す。音や光に敏感になるため、カーテンを閉め切った部屋で過ごす患者もいる。発症後に仕事を継続できたのは2%にとどまり、重症の場合にはほとんど寝たきり状態になる。

 有効な治療法がないのが現状で、何十年もこの病と闘っている患者も少なくない。現段階では原因が特定されていないが、歴史的に見ると、SARSなどウイルス疾患の集団発生後に多発しているという事実がある。

 国によって、「慢性疲労症候群」と「筋痛性脳脊髄炎」の2つの呼び名があり、日本では今まで慢性疲労症候群と呼ばれてきた。しかし、筋痛性脳脊髄炎の会によれば、11年に発表された「国際的合意に基づく診断基準」には、筋痛性脳脊髄炎という病名のほうが正確であると明記されているという。同会では、「慢性疲労症候群という病名ゆえに偏見が助長され、この病気の深刻さの理解が妨げられている」として、病名の変更を訴えている。

 A子さんの病状は中程度で、日常生活の半分は横になって過ごす。体調が悪く生活保護費を受け取りに行けなかったため、一時支給停止になったことがある。その後はケースワーカーが自宅まで生活保護費を届けてくれるようになったが、「ノックの音が怖い」と、A子さんは怯える。25歳のときに、精神科病院に連れて行かれたことがトラウマになっているのだ。今でも、むりやり連行される夢を見ることがあるという。

 筋痛性脳脊髄炎の会では昨年5月31日より3カ月間、新型コロナウイルス後に体調不良が続いている人を対象にウェブ上でアンケートを実施した。326人の回答者のうち、極度の倦怠感など慢性疲労症候群に似た症状を呈した人は91人、全体の約28%だった。その後専門医による診察を経て、5人に慢性疲労症候群の確定診断が下った。

 この病気の診断基準を満たすためには症状が半年以上続く必要があることや、慢性疲労症候群を疑われた人全員が専門医を受診できたわけではないという状況から、10月の時点で診断にまでたどり着いたアンケートの回答者はそれほど多くなかったと推察される。つまり、発症した人は「5人」ではなく、「少なくとも5人」ということになる。

 重症者だから後遺症が残るというわけではなく、軽症者でも後遺症に苦しむ患者も少なくないと聞く。2月下旬、筆者は東京・上野のアメ横を通り過ぎようとして驚いた。2回目の緊急事態宣言下というのに、高架下周辺の昼飲み居酒屋が大声で盛り上がる若者たちで満杯だったのだ。コロナ禍以前と変わらずぎゅうぎゅう詰めで、アクリル板などの対策もまったくない。違っていたのは、自分の身を案じてか年配者が見事に消えたことだった。重症化のリスクが少ないため気にしない若者が多いのかもしれないが、後遺症のリスクは知っておいたほうがいいのではないだろうか。

(文=林美保子/フリーライター)

林美保子/ノンフィクションライター

林美保子/ノンフィクションライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、執筆活動を開始。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)。

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