20年前まで、日本でも砂糖には税金が課されていた。砂糖税は、1989年に消費税の導入と同時に一本化されたため消滅した。それが復活する可能性だってある。仮に砂糖税が創設された場合、もっとも大きな打撃を受けそうなのが飲料メーカーだろう。しかし、ある飲料メーカーの社員は、こう楽観視する。
「今般、日本人は健康志向が強くなっており、それは食べ物ばかりではなく、飲み物でも同様です。日本国内全体の清涼飲料水の消費量が増えているので、砂糖税が創設されたら飲料メーカーは苦しくなるという声は業界内にあります。しかし、清涼飲料水の消費量で増えているのは、ジュースや炭酸系飲料ではなく、お茶系飲料や水です。そのため、日本国内で砂糖税が創設されても飲料メーカーには大きな痛手にはならないのではないでしょうか」
それでは、カフェ業界はどうか。この業界では、健康志向の高まりから糖分・塩分・カロリーの少ないメニューが続々と開発されてきた。最近では、グルテンフリーを謳うメニュー開発・導入が急ピッチで進んでいる。
海外からカフェの食品・飲料の原料輸入を手掛ける業界関係者も、「日本のカフェ業界は健康志向が強くなっていて、昨今はグルテンフリーがトレンドです。砂糖を多く使うメニューは検討されなくなっている」と口にする。こうした事情から、カフェ業界で砂糖税はほとんど話題にならない。
また、カフェ業界が砂糖税を気にしない背景には、お客が高齢化している点もある。客層が高齢化すれば、今後はお茶やコーヒーの需要が増える。そうした業界動向から、砂糖税を恐れているという様子はない。
カフェと同様に、コンビニ業界も影響は少ないと見られている。コンビニ業界も、近年では高齢者をターゲットにするようになり、ドリンク棚はお茶やコーヒーなどが多くを占め、ジュースや炭酸系飲料の取り扱いは減っている。
ファミレス業界は影響大?
では、砂糖税が大きな影響を及ぼす業界はどこなのか。カフェ業界・コンビニ業界を横目に、砂糖税の恐怖に晒されているのが実はファミレス業界だ。
ファミレス業界もカフェ業界と同じく、健康志向という潮流に乗ってメニュー開発を進めている。アレルギー対応メニューの開発において、ファミレス業界はカフェ業界よりも早く対応してきた。メニューのほかにも、店舗を完全禁煙・分煙にリニューアルするなど、健康面ではカフェ業界よりも一歩先んじている。
そんなファミレス業界でも、ドリンクバーだけは必須。ファミレスのヘビーユーザーは高校生・大学生もしくは子連れのファミリー層だからだ。
「ドリンクバーのラインナップはコーヒー・紅茶のほかは、コーラ・オレンジジュースといった砂糖税の対象になりやすい清涼飲料水ばかり。しかも、ジュースや炭酸系飲料のほうが多く揃っている」(業界関係者)
ファミレス業界でも、健康志向や少子高齢化を反映してドリンクバーはお茶やコーヒーを多く揃える傾向になっているが、それでもドリンクバーからジュースや炭酸系飲料をなくすことは難しい。高校生・大学生・ファミリー層に訴求できなくなるからだ。
今のところ、日本国内で砂糖税の本格的な議論は始まっていない。しかし、政府が新しい税源を確保するために、砂糖税を創設する可能性も捨てきれない。近い将来、日本が諸外国に追随して、砂糖税を創設することは十分にあり得るのだ。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)