いったん沈静化したかに見えた森友・加計問題が再燃して、安倍内閣は火消しに懸命だ。マスコミ各社の世論調査でも支持率は30%台まで低下、確実とされていた安倍晋三首相の自民党総裁選3選にも黄信号が灯っている。
発足以来、最大の危機に陥っている政権にとって、拠り所になるのは経済すなわちアベノミクス景気だろう。日本銀行による前例のない極端な金融緩和と円安誘導によってもたらされた景気回復は5年を超えた。安倍首相自ら国会や街頭演説で繰り返すように、これは現政権による最大の実績とされている。確かに、新卒の就活は空前の売り手市場であり、人手不足によるアルバイトの時給上昇も続いている。一部ではあるにしても、国民が実感できる成果が現れていることは確かだ。
ただ過去の経緯からも、景気の転換点を見誤ることが多い、要するに好不況の境目を実態より遅れて認知する傾向のあるマクロ指標ではなく、各業界で現場に携わる関係者の声を聞くと、その足取りはかなり怪しくなっていることがわかる。
都心部で不動産業を営む50代の男性は、市況の変調を感じている。
「販売を開始すれば引き合いが殺到するような状態はもう終わった。新築の好立地の物件の価格は高止まりしているが、中古や中途半端な物件は引き合いがない」
一例をあげると都心部で20坪、築10年前後の戸建てを販売しているが、当初の価格(数千万円)から1割値引いても反応は薄く、さらなるディスカウントを考慮しているという。買い手側の選別も厳しくなっているようで、あるタワーマンションの購入を検討している中国人の顧客からは、現在はもとより建設前の地盤の状況まで執拗に聞かれたそうだ。
不動産とともに景気浮揚の両輪となる株式市場も煮詰まり感は強まっている。昨秋から上値を追っていた日経平均株価も年初の2万4000円台で頭を打ち、以降、2月の暴落、3月のミニ暴落に見舞われたのち、調整している。今後についても「ここしばらくは保ち合いだろう、悪くするともう一段押す(下落する)可能性はある」(証券関係者)、「積極的に買える局面ではない。むしろ大きく上げたならば先物を売り建てる好機と捉える」(デイトレーダー)と、慎重な見方は増えている。市場を取り巻く現在の環境を考えれば、楽観論が後退するのも自然であろう。