国会が閉幕し、秋の総選挙がほぼ確定したことで、衆議院議員の政界引退や次回不出馬の表明が相次いでいる。
6月28日には、衆院最高齢の自民党の伊吹文明元衆院議長(83・京都1区)が記者会見を開いて引退の意向を明らかにした。自身だけでなく家族や事務所スタッフの年齢や体力の問題に触れ、世襲は否定したうえで、「しっかり後継を当選させて、引き継いでいかなければならない」と述べた。
自民党の閣僚経験者では塩崎恭久元厚生労働相(70・愛媛1区)も同19日に次期衆院選に立候補しないことを表明。「若い世代の発想と力が必要なので次世代へバトンタッチする」と説明し、後継については自民党の愛媛県連が公募するという。
こうした不出馬表明は、今後も続くと見られる。
「いつもより多くなる可能性があるのではないかと思います。次々回から衆議院の選挙区の区割りが大きく変わることが、少なからず影響しています」(選挙関係者)
実は今まで通りの区割りで実施される衆院選は、今秋が最後。次々回からは昨年実施された国勢調査に基づいて、1票の格差を是正する「アダムズ方式」が新たに導入される。
全都道府県にまず1議席を割り当てたうえで、残りを人口比で配分する現状の「1人別枠方式」に対し、「アダムズ方式」は各都道府県の人口を一定の数値で割って議席の数を決めるため、より人口に比例した配分ができるとされる。
その結果、人口の多い東京都が現状の25選挙区から30選挙区に5つも選挙区が増えるなど、5都県の議席数が増やされ、新潟や山口など10県で議席が減らされる。さらには、都道府県単位で見ても選挙区ごとの境界線が変更される。例えば、これまでA市とB市が範囲だった選挙区が、A市とB市の半分とC市の半分に変わったり、といったことが起きるのだ。
そうなると候補者は自分の選挙区から外れてしまったB市の残り半分の地域の支援者を失い、一方で新たにC市で支援者をつくり、後援会を組織するなど“票集め”の勝手が違ってくる。下手すれば、選挙区がまったく新しい地域ばかりになってしまい、政治活動を一からやり直さなければならなくなる。
「ベテラン議員になればなるほど、自分が築いてきた後援会や支援者は大事に後継候補につなぎたい。新人にうまくバトンタッチするなら、今度がラストチャンス。息子や娘などに世襲で引き継ぐならなおさらです。もっとも、区割りが変わる次々回は厳しい選挙になるからと、逆に次回までは出馬して、次々回は引退という自分本位の人も少なくないでしょうけどね」(前出の選挙関係者)
キングメーカー2人の存在
衆院最長老の伊吹氏が引退を決めたことで、その進退に注目が集まるのは伊吹氏に次ぐ高齢者の2人。自民党の二階俊博幹事長(82・和歌山3区)と麻生太郎財務相(80・福岡8区)である。
「二階氏は秘書をしている三男に後を継がせたいと思っているが、地元の調整が進んでいない。そのため、もう1期、自分が出馬するつもりでいるようです。本来ならば区割りが変わる前の次期衆院選で交代したほうがいいんですがね。和歌山には現在3つ選挙区があるが、アダムズ方式により1つ減って2つになってしまう。ますます二階氏の息子は出にくくなる。
麻生氏も同様に親族への世襲を望んでいるようだが、現在は権力の中枢にある。今秋の衆院選の後になりそうな自民党総裁選でも『キングメーカー』として権勢を振るいたいと考えているため、まだ引退しないだろう」(自民党議員のベテラン秘書)
衆院選をめぐって自民党内では、比例候補に適用する「73歳定年制」を堅持してほしいと考えている若手と、撤廃を望むベテランで綱引きも始まっている。国政選挙に勝利し続けた安倍政権時代に自民党議員の高齢化はどんどん進んだ。「人生100年時代」といわれる昨今だが、定年制導入の必要性を訴える声も強い。
(文=編集部)