求人票は企業側が好き勝手に書ける?
さらに同職員は、みなし残業制度が抱えている問題点を指摘する。
「みなし残業時間をオーバーして働いた従業員に対しては、もちろん企業はその分だけ残業代を支払う必要が出てきます。そう考えると、企業にとってはメリットのない制度のようにも思えますが、決してそんなことはありません。
近年、みなし残業手当や固定残業手当がなぜ流行っているかというと、それは従業員に残業させやすくなるからです。この制度があると、企業には『先に○時間分の残業代を支払っているのだから、その分、きっちり働いてくれ』という言い分ができてしまい、従業員からすれば残業を断るのが困難になります。人手不足に陥っている業界であれば、なおさら残業への依存度は高くなります」(同)
同職員いわく、50~60時間のみなし残業を定めている企業も珍しくないとのことだが、そのような求人をハローワークとして取り締まることはできないのだろうか。
「個人的な意見ですと、みなし残業制度は規制されるべきだと思うのですが、今のところは合法だといわれています。それなりの基本給が支払われるのであれば許容できるにせよ、現実的には基本給15万円とみなし残業代5万円を合わせて総支給額20万円、というような求人も少なくないのです。
企業は『まったく残業しなかった月でも5万円は絶対に支払う』というお得感をアピールしているわけですが、逆に考えてみれば、一定時間を超えない限りはどんなに残業したとしても5万円どまり。私からすると、見た目の額面で求職者を騙しているような気がしてしまいます」(同)
最後に、俗にいう“ブラック企業”はハローワークの求人情報の中にも紛れているのかを率直に問うと、「ブラック企業かどうかを決めるのはその人次第ですが、当然紛れているでしょう」との返答だった。
全国のハローワークは昨年秋から、最低賃金をクリアしていない求人票を自動検出するシステムを導入しているという。とはいえ、求人票はあくまでも企業の自己申告にすぎず、その内容が正しいかどうかはハローワークでも調べ切れないようだ。是が非でも応募を集めたい企業にとって、求人票はいくらでも都合よく書けてしまうのが実情で、実際に法的な拘束力を持つのは、内定後に交わす契約書のほうだ。
求人票とは異なる内容が契約書に記載されていたとしても、ブラック企業は「求人を出したときとは事情が変わった」などと言い逃れすることもあり得る。採用される側が、流されるままに一度契約書にサインしてしまえば、その後、反論しようとしてもかなり不利になってしまうという。
現状では、どんな求人票であっても鵜呑みにはできないということのようだ。基本給と残業代の区別があいまいになっていないかといったポイントを、最終契約前には徹底的に疑わなければならない。
(文=編集部)