さらに試合前日の9日にはインスタグラムに動画を投稿。ある部員が「明日の試合はAを抜きまくって倒す」と実名を挙げて発言。もうひとりの部員が「ぶっ殺す」と発言していた。チーム内のLINEでは「あいつや」「やっちまおう」などの投稿もされていた。
しかし、浪商側はひじ打ちは「故意でない」ため、SNSや投稿動画について「反則プレイとはつながりがない」とした。SNSなどで発信していた選手は、試合には出ていたがひじ打ちした選手ではない。徳永監督は「LINE仲間に入っていたのか」との質問に「入っていません」と答えた。入ってないから知らなかったではなく、未成年の教育者としてこうした部分にも目を光らせるべきだろう。
桃山学院の木村監督は、「試合の前日に実名を出して殺すなどと言っているのは悪質。実名を挙げたSNSなどの投稿を知っていた保護者の方も、自分の子供が何かされるのではと不安だったなか、本当に起きた。冗談のつもりにしても実際に起きれば冗談ではなくなる」と批判した。
血気盛んな10代が仲間内で接触プレイの多い競技のライバルについて、「あいつ、殺したれ」などと冗談交じりに言ったりすることは不思議ではない。しかし、文字や映像にして、ましてや他者に発信するとなると話は別次元となり、一気に社会問題化する。今回、これがなければここまで問題は大きくならなかったのではないか。
審判の問題
もうひとつ、日大アメフト部による悪質タックル問題と同様、審判の問題がある。今回、2人の審判は直前に起きた別の反則(桃山学院選手が浪商選手を突き押した)の処理をしていたため、当該場面をまったく見ていない。ひじ打ちはプレイが止められている間に起きた。木村監督が抗議したが、反則退場もさせなかった。大問題になったアメフトでは、審判のひとりが危険タックルの瞬間を見ており、日大の加害選手に「君、何やってるんだ」と注意したが退場させなかった。その理由を後日、朝日新聞の取材で「すみません、と素直に謝ったのでもうしないと思った」と語っていた。しかし、反則ペナルティとは起きたことに対するものであり、「素直だから」などの予測や教育的配慮で判断するべきものではない。誤審の言い訳にしか思えない。
今回のハンドボールでの事件は、タイミングが悪かったとはいえ誤審には違いない。審判数が2人ではすべてを把握するのは難しいが、ビデオ判定など改良の余地があろう。
日大選手の危険タックルでは関学選手が半身不随などになる可能性もあった。今回の桃山学院のA選手も幸い大事には至らず、その後も得点するほどのがんばりを見せた。強いひじ打ちは、平手ではたくのとはわけが違う。成長期の肋骨はまだ弱く、心臓を損傷する可能性もあった。指導者に知識がないのかもしれないが、医学上の危険を教える教育が足りないのではないか。
さらに、浪商側の主張通り打撃が偶然にしても、床に倒れ込んで苦しむ選手を見ながら声もかけず手も貸さない浪商選手の態度も、世に悪印象を与えている。チーム強化の前に、指導者がすべきことは多い。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)