国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が7月、広島市中区の平和記念公園を訪れた際の警備費用が、地元自治体の広島県、広島市の負担となっていたことがTwitterなどSNS上で物議を醸している。
中国新聞デジタルは12日、記事『バッハ氏の広島訪問警備費負担、IOCと組織委が拒否 広島県と市が全額折半』を公開。東京オリンピック(五輪)の開催に伴い来日していた、IOCのバッハ会長が広島市を訪問した際の警備費を、広島県と同市が折半することになったと報じた。警備費は全額で379万円。IOCと東京五輪・パラリンピック組織委員会側に負担を求めたが拒否されたのだという。同記事は次のように報じる。
「バッハ会長は原爆資料館でスピーチし『平和に五輪運動として貢献する』と強調したが、核兵器の廃絶に触れなかった。また、県被団協(坪井直理事長)や松井一実市長、秋葉忠利前市長たちが五輪開催中だった8月6日に選手たちに黙とうを呼び掛けるようそれぞれIOCへ要請したが、実現しなかった。
県と市によると、2016年5月のオバマ米大統領の訪問時、県と市は警備費用を負担していない。19年11月のローマ教皇フランシスコの訪問ではバリケード設置の委託費99万円を県と市が折半した。いずれも広島県警が警察官を動員し、市職員も警備に当たっている」(原文ママ)
バッハ会長はローマ教皇と同等のVIPなのか?
中国新聞の報道によれば、バッハ氏の広島訪問時の自治体の対応や費用負担は、ローマ教皇と同様かそれ以上だったようだ。バチカン市国の国家元首であるローマ教皇と違い、国際的な権威があるとはいえIOCは任意団体にすぎない。今回の訪日も、IOC会長の業務の一環として行われているのだから、その業務に付随する安全確保は当事者団体が行うのが筋のように思える。
裏を返せば、IOCや組織委が警備費用を負担せず、政府や自治体などの公的機関が公費負担したということは、国や自治体がバッハ会長を「外国要人」と判断したということになる。
そもそも国が警護責任を負う「外国要人」とはどのような人々を指すのか。例えば警察法施行令(昭和二十九年政令第百五十一号)第十三条第一項に基づく「警護要則」では以下のように、警護対象を定義している。
「第二条 この規則において『警護対象者』とは、内閣総理大臣、国賓その他その身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者として警察庁長官が定める者をいう」(原文ママ)
今回の件に関し、元警察庁関係者は次のように語る。
「オリンピックはたびたび国際的なテロのターゲットになってきた歴史的背景があります。IOCのバッハ会長は“その身辺に危害が及ぶことが我が国の公安に係ることとおそれがある者”に準ずると解釈できます。そのため開催国政府として安全確保に一定の責任が生じるのではないかと思います。ケースバイケースですが、警察の警備に加えて、警備会社などによる警備が必要になる際は追加費用が発生することがあります。その際は、当事者間で負担割合を協議することになります」
広島の一件は赤字五輪の追加”国民負担”の序章
来日期間中のバッハ氏の動向は、ことあるごとに物議を醸してきた。コロナ禍での開催や商業主義的な色合いを強めるIOCの五輪開催方針に対する日本国内の風当たりも強く、同氏が宿泊していたホテル前や、広島訪問時にデモが発生していた。都内の警備会社関係者は次のように指摘する。
「(バッハ)会長が宿泊するホテル前など、IOC幹部の警備は当初の予定より強化されたそうです。危険性の低い関係者の誘導など警備員でなくてもできる業務に関しては、ボランティアも動員されていたようです。いずれにせよ“IOC幹部の警備”ということに限れば、当初より費用が多くかかったのではないでしょうか」
また組織委関係者は語る。
「無観客開催に伴う減収、新型コロナウイルス感染症対策の追加費用などで組織委内ではとにかく支出削減が叫ばれています。上層部間で協議したことなので詳しいことはわかりませんが、今回の広島の件はあくまで一端で、今後も自治体などに(追加負担を)お願いする案件も出てくるのではないでしょうか」
東京五輪の巨額赤字と、それに伴う今後の国民の追加負担に関して、さまざまな推測が報道各社から指摘されている。今回の広島の警備費の公的負担はその序章にすぎないのかもしれない。