不幸の連鎖。そして、誰もが傷を負っている。
日本体操協会をめぐるゴタゴタは、全員が傷を負う泥沼化の様相を呈してきた。宮川紗江選手の会見があったのは8月29日のこと。当初は、速見佑斗コーチから受けた暴力問題の会見と思われていたのが、日本体操協会の重鎮、塚原光男副会長と塚原千恵子女子強化本部長のパワハラを告発する舞台へと戦線が「拡大」し、マスコミがこれに食いついた。
それぞれが負った傷を見てみよう。
・塚原夫妻
宮川選手側の告発では、速見コーチの過去の暴力事件を利用し、指導する朝日生命体操クラブへの引き抜きを工作。また、宮川選手の会見を受け、塚原副会長が「全部嘘」と言ってしまったことから、「悪役」になることが避けられなくなった。9月に入ってからは、各メディアが後追いするかたちで過去のパワハラ、暴力なども報道されるようになり、さらに傷は拡大する見込み。
・宮川選手
今回の騒動によって、自分が欲している練習環境が失われてしまった。また、所属をめぐっての「二重契約」問題が浮上、マネジメント面でのトラブルが報道されている。また、コーチから平手打ちを食らう映像が公開され、暴力を容認してまでコーチと歩みを共にする姿勢に、疑問が投げかけられている。
・速見佑斗コーチ
暴力問題が告発され、本人もこれを認めた。協会から下された無期限の登録抹消処分を受け入れ、9月5日に会見を行う事態に追い込まれた。かつての所属クラブでの暴力映像が公開されたことにより、指導者の能力に大きな疑問符がついている。
少女への強烈な平手打ちは、衝撃的だった。スポーツではあってはならないことであり、宮川選手、そして家族が許容していれば済むという話ではない。平手打ちの映像を見ると、会見で都合の悪い部分を隠していたとしか思えない。
また、速見コーチの会見での発言を読むと、暗澹たる気持ちになった。彼の会見でのキーワードは、「暴力の連鎖」だ。
「暴力は指導の一環ですか?」という質問に対し、コーチはこう答えている。
「子どもの頃にそういう認識を持って大人になりました。危険な場面や練習に身が入っていないとき、ケガや命にかかわるくらいなら、叩いてでもわからせないと、という認識でした」
速見コーチは自分もそういう指導を受けてきたと認め、
「当時は教えてもらえたという感謝の気持ちが根底にありました。それは本当に間違いだと、今回学びました」
と語った。殴られ、叩かれ、感謝してしまうという悲劇。それが、次の世代へと引き継がれてしまう恐ろしさ。ここで負の連鎖を断ち切らなければならない。