塚原千恵子氏(日本体操協会強化本部長)の「黙ってないわ」、塚原光男氏(同協会副会長)の「全部ウソ」などの苛烈な発言から急転直下、「私たちの落ち度が大きな原因」と謝罪する声明を2日、塚原夫妻は報道各社に送った。一連の発言については、「感情に任せた自分勝手な発言等により、私たちが宮川紗江選手と対立姿勢にあるとの印象を与えてしまいました」と釈明している。全面対決の姿勢から突然の変化に、宮川選手本人も戸惑っているようだ。
スポーツライターの小林信也氏から、謝罪声明の評価を聞いた。
「素直によかったなと思っています。何日かかかりましたが比較的短い日数で、今のスポーツの指導者が変えるべき姿勢を、ダイレクトに見せてもらったように感じています。これが本来、最初に持っていなければならない指導者の基本姿勢だと思います。ただし、「謝罪はするけど、パワハラは認めない」というスタンスは、もちろんまだ不十分です。本当はもう一回転がって、基本的な指導姿勢の誤り、指導者としての上から目線の一掃を約束してくれたら、なおうれしいです。パワハラについて今までの日本の実績のある“名将”などといわれている人たちは、そうではなかったということも浮き彫りになったと思います。それまでの発言からの変化を見ると、こういうふうに考えを変えていかなきゃいけないということが、明らかになった気がします」
このタイミングでの謝罪声明の発表は、第三者委員会の調査への影響を考えたのでは、と憶測する向きもあるが、どうなのだろうか。
「当然そういう判断もあったかと思いますけど、だからといって、こういう声明はなかなか出せない。そこは穿った見方をするよりも、素直に受け入れることがいいのではないでしょうか。第三者委員会というのは、取り扱う案件によっては、どっちが正しいかをジャッジする場合もありますが、パワハラの場合は必ずしもそうではありません。パワハラを受けて苦しんでいる人が、なぜそういう気持ちに至ったかを理解してあげることが目的だと思います。塚原夫妻の謝罪声明は、そうしたスタンスに沿ったものと見ていいと思います」
宮川選手は速見佑斗コーチの指導を受けることを希望しているが、塚原夫妻の謝罪によって、それが実現することはあるのだろうか。
「速見コーチの暴力の問題は、塚原夫妻のパワハラの問題とは別ですよね。これは宮川さん本人がどう言っても暴力を用いた者を認めることはできないので、一定の処罰はやむを得ないと思います。暴力を振るわれた人間が、「私はそれを認めます」というのは言ってはいけない。宮川さんが望んだとしても、暴力を用いる指導は今後絶対受けられないということは、これは宮川さんも理解しましたと言っています。いくら彼女が望むと言っても、速見さんへの処分が解けない限り、ナショナルチームのレベルでは指導は受けられないということです。
体操協会の出している見解は曖昧で、『日常の指導をするのはいい』みたいなことも言っている。だけど、ナショナルチームに行った時に帯同するということはできないわけです。コーチというのは自分のステップアップに応じて変わっていくなり、あるいはプラスされるということもあってしかるべきです。今後、宮川選手が国際大会に出て行く、あるいはオリンピックでメダルを獲ろうという時に、どのコーチがふさわしいのかは宮川さん本人の気持ちも尊重されなければいけないけど、ちゃんと信頼できる人が助言するなり相談するというのが本来のかたちですね。問題は、塚原夫妻は宮川さんからの信用がない、塚原さんに言われても絶対に応じないということですけど、誰か適切な人がアドバイスするというのが望ましいと思います」
無期限登録抹消処分への誤解
宮川選手は、暴力行為は許されないことだと認める一方、無期限の登録抹消という速見コーチへの処分に対しては「いくらなんでも重すぎる」と、8月29日の会見で語っている。