「彼女の言いたいことはわかります。塚原さんたちが仕組んで速見コーチに厳しい処分が下ったという不信感が、その言葉の背景にあるんだと思います。ただ、処分が重いかどうかに関しては、ちょっと誤解があります。無期限の登録抹消というのは当初、永久追放に近いと捉えられていたと思います。その後の体操協会の説明だと、無期限というのは、とりわけ期限を設けないということであって、永久的という意味ではない。『真摯に反省し、実績を積んだ後で都道府県より申請があれば再登録が検討されることになる』ということです。復帰することはあり得るし、速見コーチが宮川選手を再び指導することも可能性一般としてはあり得ます。だから必ずしも、処分が重すぎるとはいえないのです」
8月31日に塚原夫妻は、宮川選手との面談の際の録音データを公表していた。
「普通に考えて、そもそもなんでそれを録音していたのかが、よくわからないですよね。自分が助言をする時に、本人に内緒で、なぜわざわざ録音したのか。それを証拠として出してきたといっても、自分は録音しているのがわかっているのですから、普段より優しい口調になることも容易に想像できます。塚原さんはそれを自分がパワハラをしていない証拠として出したわけですよね。確かにものの言い方は普段と違って柔らかいかもしれない。だけど内容は明らかにパワハラで、受動的立場にいる人にああいうことを言ってはいけないという見本のようなものですよ。
例えば、学校に行くことができない不登校の生徒に、担任の先生が『それは逃げでしょう』『弱いでしょう』というのは、1番言ってはいけないことです。それと同じような『それはあなたのわがまま』『親を呼び出しましょうか? 私が』ということを言っているわけじゃないですか。それはやってはいけないことなのに、その認識がない。自分は正しいことを言っていると思っているということが、録音データの公表で明らかになったことです。
宮川選手のほうは、信頼している速見コーチを塚原さんたちがなんらかのかたちで陥れて、自分たちが一緒にできなくなったと思っているわけですよね。仕掛けたと思っている相手に何を言われたって、負担になるばっかりだということは容易に想像できるのですが、そういうこともわかってない。いかに自分たちが間違っていたか、横柄だったか、指摘されて納得せざるを得なくなって、謝罪声明を出すことになったと思います。録音データが公表されたのは、ことを進展するきっかけにはなりました。だけど塚原さんたちの正当性を証明するのではなく、逆だったと思います」
日本スポーツ界全体の課題
昨年から今年にかけ、スポーツ界でさまざまな不祥事が明らかになり、今まで隠蔽されていた問題が噴出しているという印象を多くの人々が受けている。
「隠蔽していたのではなくて、誰も悪いと思ってなかった。そんなの当たり前だと思ってきたのです。録音データを公開するというのが、その象徴ですけど、あれを悪いとは思ってないわけですよ。世間はパワハラのことを問題にしてきているのに、スポーツ界はまったく対応し切れてない。さすがに体罰が悪いというのは共通認識になっていますけど、それでさえ体罰をやったほうが強くなると思っている人も残っていて、それは隠蔽されています。