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片田珠美「精神科女医のたわごと」

【仙台警官刺殺】相沢容疑者、「警官による自殺」か…6月の富山・警官刺殺事件に触発された可能性

文=片田珠美/精神科医
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【仙台警官刺殺】相沢容疑者、「警官による自殺」か…6月の富山・警官刺殺事件に触発された可能性の画像1「Gettyimages」より

 9月19日、仙台市の交番で警官が21歳の大学生、相沢悠太容疑者に刺殺された。別の警官が交番内で発砲し、相沢容疑者も死亡したが、この事件の捜査を今後進めるうえで「警官による自殺(suicide by cop)」の可能性を視野に入れておくべきだと思う。

「警官による自殺」はアメリカで提唱された概念である。警官に射殺された人間が自殺願望をもともと抱いており、一般市民や警官の生命をおびやかすようなことをして、警官が発砲するように故意に挑発したとみなされる場合、「警官による自殺」と呼ばれる。

 もっとも、当の本人は死亡しているし、遺書が残されていない場合のほうが多いので、本人の意思を確認することはできない。そのため、現場での本人の言動や周囲の証言などにもとづいて推測するしかない。

 この概念がアメリカで登場した背景には、警官自身と一般市民の生命を守るために警官が発砲するケースが多いという事情がある。とくに白人警官が「身の危険を感じた」という理由で黒人男性を射殺する事件が相次いで発生している。

 そのため、警官の発砲は果たして適切だったのか、警官が主張する「身の危険」というのはどの程度のものだったのか、警官がささいなことで発砲するのは「過剰防衛」ではないかという批判がしばしば噴出する。

 こうした現状から、警官は仕方なく発砲したのだと当局側が自己正当化するために、「警官による自殺」という概念が必要だったのではないかという見方もできる。だから、「警官による自殺」という概念が登場した背景にアメリカ特有の事情があることは否定しがたい。

 とはいえ、もともと自殺願望を抱いていて、警官に射殺されることを予め想定したうえで事件を起こす人間が一定の割合で存在するのは事実だ。とくにアメリカの警官は銃の取り扱いに慣れていて、ターゲットに命中させる腕を持っているので、自殺志願者の目には、「警官による自殺」は“効率的”と映るようである。

「警官による自殺」の定義と発生頻度

「警官による自殺」という用語を最初に用いたのは、ゲバースである。1993年に、「自己破壊衝動に駆り立てられた人間が、他人もしくは自分自身の生命をおびやかすような犯罪行為を行い、最終的に警官に射殺される事件」と定義している。

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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