【仙台警官刺殺】相沢容疑者、「警官による自殺」か…6月の富山・警官刺殺事件に触発された可能性
垣間見える自己顕示欲
最後に打ち上げ花火を上げたいという願望とも関連するのだが、「警官による自殺」の動機を綿密に分析した前出のモハンディは、自己顕示的な側面が垣間見えることが多いと指摘している。
何を顕示したいのかといえば、自分自身の絶望感、怒りと復讐願望、自分はあくまでも被害者という被害者意識などだ。いずれにせよ、最後に注目を浴びたいという自己顕示欲が「警官による自殺」に走らせるというのが、モハンディの主張である。
この主張を裏づけるために、モハンディは次のような事例を紹介している。自宅からの立ち退きを命じられた無職の男は、最近両親と息子を喪ったばかりで、周囲の目には「ふさぎ込んでいる」ように映ったという。この男は、ライフルを手にして警官と対決した末に射殺された。彼は、自分は被害者であり、絶望していると訴えたかったのだろうと、モハンディは推測している。
この男の絶望感と被害者意識は、「警官による自殺」を図る容疑者の多くに共通しているのではないか。地味な人生を送ってきて、注目されることなどなかったのだろうが、最後にそれこそ打ち上げ花火を上げるようなつもりで爆発したのだろう。裏返せば、怒りと復讐願望がそれだけ強かったともいえる。
今回の事件が「警官による自殺」に該当するか否かは、犯行に至る経緯や生活歴などを丹念に調べ、絶望感と自殺願望、怒りと復讐願望を抱いていたかを明らかにしたうえで判断すべきだろう。
見逃せないのは、今回の事件が、今年6月に富山市内の交番で警官が刺殺されて拳銃を奪われ、近くの小学校で警備員が撃たれて死亡した事件に触発されて起こった可能性が高いことだ。警官の発砲によって重傷を負い、殺人未遂容疑で逮捕された元自衛官の島津慧大容疑者も、犯行当時相沢容疑者と同じく21歳だった。
相沢容疑者が警官の拳銃を奪うために交番を襲った疑いも指摘されている。そうだとすれば、島津容疑者と同様に学校、あるいは駅や路上などで不特定多数の人々を襲撃しようとした可能性も考えられる。その場合、警官の発砲によって自分自身が死亡するかもしれないわけで、「警官による自殺」とみなすことは妥当だと思う。
この手の犯罪は、先行する事件を模倣する「コピーキャット(copycat)」によって連鎖することが多い。したがって、同様の事件が続発するのではないかと危惧する次第である。
(文=片田珠美/精神科医)
参考文献
片田珠美『拡大自殺―大量殺人・自爆テロ・無理心中』角川選書 2017年
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