「石原都政時代から、東京都は積極的に緑化政策に取り組んできました。これは花粉症対策という面も大きかったのですが、ヒートアイランドを抑制するという意味もありました。石原都政では公園を積極的につくることで緑化に取り組んだほか、河川空間の緑化も積極的に推進しました」(東京都職員)
東京都と同じく、国土交通省でも屋上緑化や壁面緑化を奨励している。ビルが密集する東京都では、公園や河川といった緑化できるスペースにも限界がある。そうした事情を考慮し、ビルの屋上に庭園をつくったり、壁面をまるごと植物で覆う試みが行われている。
屋上緑化や壁面緑化は、建物の構造や荷重、水やりをどうするのかといった問題もあり導入することは簡単ではなかった。
「事業者と研究・開発に取り組んだことで、屋上緑化も壁面緑化も拡大しつつある。その結果、緑化したエリアは1~2度ほど気温を低下させることに成功した」(国土交通省職員)
1~2度気温が下がるだけでも人に与える影響は大きいが、そうした東京都や国土交通省の取り組みをあざ笑うかのように、それを上回るスピードでヒートアイランド現象は加速している。このままでは、まともに五輪を開催することは難しい。
熱中症対策講じられず
特に心配されているのが、マラソン競技だ。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会は大会中の高気温を心配し、マラソンのスタート時間を早朝7時に繰り上げることを検討している。ロンドン五輪や北京五輪でも、マラソンの開始時刻を早朝に繰り上げるなどの対策をしたが、それでもランナーにとって負担は大きく、危険であることはいうまでもない。
実際、15年1月に開催された香港国際マラソンは気温17度・湿度84%のコンディションだったにもかかわらず、ランナー1名が心臓発作で死亡。約40名が救急搬送される事態を招いた。香港国際マラソンよりも過酷な環境の東京五輪では、死者が出ることを覚悟しなければならない。
マラソン競技のほかにも、自転車競技やボート・カヌー競技といった長時間にわたって炎天下で実施される種目もある。こちらで選手の負担が心配される。さらに、競技を観戦する客や大量に動員されるボランティアスタッフの熱中症対策もほとんど講じられていない。
世界中から注目される東京五輪は、暑さという最大の課題をクリアできずに阿鼻叫喚のイベントになる可能性が極めて高くなりつつある。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)