8~9月にかけて錯綜した任侠山口組の六代目山口組加入情報は、今となればなかったかのようにある時期からピタリと止まり、業界内外は静まり返っている。公式にではないものの、六代目山口組上層部周辺から漏れ伝わってくる声の中からは、「そもそもそういった話すらなかった。任侠サイドのつくり話だ」と、バサリと否定してみせるものも少なくない。
こうした状況は一昨年、分裂騒動が拡大するなかで急浮上した六代目山口組と神戸山口組の統合情報と、それが消滅した時と酷似しているのではないだろうか。その時も今回も、「そんな話はなかった」と当事者周辺からは漏れてくる一方で、客観的に検証すると、まったくのつくり話とはいえないと考えるほうが妥当だと思えてくる。
任侠山口組の加入情報が業界関係者の間に瞬く間に駆け抜けた際、警察当局でさえ情報収集に乗り出し、ある種の確信めいた言葉で「任侠山口組の六代目山口組入りは、間違いないのではないか」と話す捜査関係者もいたほどだ。また、六代目山口組と任侠山口組のそれぞれの執行部会が開催された際には、いつも以上に報道陣が駆けつけていた。ヤクザ業界周辺に流れる情報の真贋を見分けることは、当局や報道の重要な仕事だが、彼らはこぞって「ガセネタとは言い切れないだろう」という見方をしていた。
「仮に、加入情報が任侠山口組側によって意図的に流されたデマとするならば、任侠山口組になんのメリットがもたらされるのか。結果、加入が実現しなければ、配下の組員たちを疑心暗鬼にさせることにもつながり、デメリットしかないはずだ。事実、加入説が消滅したのち、六代目山口組サイドは、足元が揺らぎ始めたと思しき任侠山口組への切り崩しを活発化させている【参考記事「任侠山口組、ナンバー3が離脱か」】。もしかすると、任侠山口組を切り崩すための六代目山口組サイドの策略だったとも思えるほどだ。もしくは、六代目山口組サイドの中で、任侠山口組を迎え入れたいとする勢力と、それに異を唱えた勢力があり、結果的に破談になったとも考えられる」(二次団体関係者)
この関係者も指摘する「六代目サイドの策略説」については、著者にも思い当たる節はある。加入情報が飛び交う8月半ばに、六代目山口組系サイドから、任侠山口組傘下のある組織へと勧誘を促す動きが水面下で起きていたことが確認できているのだ。本体である任侠山口組を迎え入れるか否かという重要な交渉が実際に行われている最中に、下部組織に対して、引き抜こうとする動きがあるものだろうか。結果論ではあるが、加入説の流布は、六代目山口組による任侠山口組への戦術のひとつであった可能性も否定することはできない。
来る者拒まず、去る者追わず
最近になって任侠山口上層部は、配下に対して、今回の加入騒動への経緯を説明したといわれている。そのために、関東で行われた2つのブロック会議には、任侠山口組若頭である四代目真鍋組・池田幸治組長も出席したとみられている。
「そのほかにも、六代目山口組系傘下組織に移籍したことによって空席となった舎弟頭に、舎弟頭補佐を務めていた大谷榮伸・京滋連合会長が就任したことが通達されたという話だ。また執行部以外の役職人事を見直したという話も出ている」(捜査関係者)
大谷会長といえば、六代目山口組傘下組織から任侠山口組へと加入した際、こぞってメディアでその姿が流されたほどの人物。勢力を誇示する地元・京都の業界関係者の間では、身体に複数回銃弾を撃ち込まれても死なかったという逸話を持つ、「不死身の大谷」として知られている人物だという。
「任侠山口組では、結成当初から方針として、『来る者拒まず、去る者追わず』の姿勢を一貫しているといいます。今回、傘下の数団体が六代目山口組系列組織へ復帰したといわれていますが、今後も特に締め付けを厳しくすることもなく、その方針に変わりはないのではないでしょうか」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
そうしたなかで、この分裂騒動の命運を左右するといわれている警察当局の「暴力団取り締まり強化月間」が始まった。俗に「月間」と呼ばれるこの時期、当局は組織の弱体化を狙い、集中的に組織幹部を摘発していくのだ。昨年も3つの山口組の大物幹部たちを次々と逮捕し【参考記事「山口組大物幹部が次々逮捕!」】、今年もすでに神戸山口組の最高幹部や有力下部組織の幹部を矢継ぎ早に逮捕したかと思うと、すぐさま関係先へと家宅捜索を行っている。
暴力団排除条例により、強まる当局の取り締まりを視野に入れながら組織防衛を行い、勢力を維持させていかなければならない点でいえば、現在は、六代目山口組、神戸山口組、任侠山口組ともに同じ苦境に立たされているといえるのではないだろうか。
(文=沖田臥竜/作家)