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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

大麻が合法な国で日本人が所持・使用は違法…処罰の対象に

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
大麻が合法な国で日本人が所持・使用は違法…処罰の対象にの画像1「Gettyimages」より

 10月17日からカナダにおいて、主要7カ国(G7)のなかで初めて、嗜好品としての大麻使用が合法化される。カナダのジャスティン・トルドー首相は、未成年が大麻をたやすく入手できる状況や、大麻の流通をめぐって非合法組織が蔓延する現状を打破するため、大麻を合法化して規制することを公約に掲げていた。つまり、今回の大麻使用合法化は、大麻の栽培、流通、販売に関して規制を設けるためといえる。一方、カナダでは、医療用での大麻使用は2001年に合法化されており、そもそも国民の間で大麻は違法という意識は薄かったとの声もある。

「最近は、大麻を公に売っている店がどんどんできていました。吸う人は、タバコ感覚で使用していると思います。今は吸っていない人でも、一度くらいは吸っているのではないでしょうか。タバコより体に害がないと考えている人もいるようです」

 都内在住の会社員Sさん(仮名)は留学中、ダウンタウンを歩いている際、タバコのにおいはほぼなく、大麻のにおいに出くわすことのほうが多かったと語る。さらに、カナダでは嗜好品としてだけでなく、治療目的で使用している人も多いという。

「友達の家の家主は60代くらいでしたが、大麻のヘビースモーカーで、しょっちゅう吸っていました。おそらく鬱症状があったと思います」

 この家主は鬱症状を軽減するために大麻を吸っていた可能性もあるが、実際に治療目的で大麻が使用されることは、カナダでは一般的になっているようだ。

「私のホームステイマザーは70代で大麻は吸いませんでしたが、友達に“痛み止め”として買ってあげたりしていました。それはサプリメントみたいな、カプセルに入っている飲むタイプの大麻でした。一度、マザーが大麻を買いに行くときについていくと、そこにはいろいろなタイプの大麻が売っていました。お店の人が『この量では高揚しない』『痛み止めであれば、この量がいい』などと説明していました」(前出Sさん)

 痛み止めや鬱症状の改善などに大麻が使用されているという現状を聞くと、日本の大麻に対する認識は立ち遅れているのかもしれないと思えてくる。

大麻の取り扱いにはライセンスが必要

 そこで、カナダの大麻を取り巻く現状を知るため、カナダ大使館広報担当官に話を聞いた。まず、2001年から合法化された医療用大麻の取り扱いについて質問すると、次のような回答を得た。

「医療用大麻の取り扱い、販売にはライセンスが必要であり、医療用大麻も国の承認を受けた一定の規定を満たしたものです。また、医療用大麻は、患者が医師の処方箋を薬局に持って行って購入します」(カナダ大使館広報担当官)

 医師の処方により医療用大麻を使用するということが、治療として確立されているわけだ。日本とは大麻を取り巻く環境がまったく違う。嗜好品としての大麻合法化でも、医療用大麻同様の規定が設けられるという。

「大麻の合法化の目的のひとつは、嗜好品とはいえ健康被害がないように、体に有害な不純物などが含まれないよう基準を設けることです。当然、製造や取り扱いにもライセンスが必要となります」(同)

 合法化に伴い、大麻への監視が強化されるといっていいだろう。

日本国民が成熟することが必要

 筆者が以前、東京・渋谷で大麻使用に関する取材を行ったところ、「海外で大麻を使用したことがある」と答えた人が多くいた。こういった人たちは、大麻が合法化されている国で使用することは問題ないと考えているようだが、実は大麻が合法化されている国であっても、日本人が大麻を所持すれば罪に問われる可能性がある。

 在バンクーバー日本国総領事館のHPには、以下のように日本人に向けて注意喚起がなされている。合わせて「カナダにおける大麻に関する法律」も掲載されているので参考にしてほしい。

 本年6月21日に成立しました「カナダにおける大麻に関する法律」が10月17日より施行されることに伴いまして、邦人の皆様に対し以下の注意点についてお知らせいたします。

1.カナダでは、本年10月17日から、大麻(マリファナ)の所持・使用が合法化されます。
2.一方、日本では大麻取締法において、大麻の所持・譲受(購入を含む)等については違法とされ、処罰の対象となっています。
3.この規定は日本国内のみならず、海外において行われた場合であっても適用されることがあります。
4.在留邦人や日本人旅行客におかれましては、これら日本の法律を遵守の上、日本国外であっても大麻に手を出さないように十分注意願います。

 海外とはいえ、日本人が大麻や薬物を好奇心で使用することは違法であるということを認識しなければならない。

 他方、薬剤師として他国の大麻に対する認識を知れば知るほど、医療用大麻は有用なものかもしれないと考えさせられるのも事実である。国として、有識者による大麻についての論議がもっと活発に交わされるようになってほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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