10月末、ロンドン発羽田行き日本航空(JAL)便の副操縦士が、英国の法律で基準の10倍のアルコールが検出されたとして逮捕された。その1カ月後に禁錮10カ月の実刑を裁判所から言い渡され、JALは懲戒解雇の処分を行った。
もちろん事件を起こした第一義的な責任は当該副操縦士にあるが、英国特有の国内法による逮捕と、退職金も支払われない重い処分、それに家族の苦労を思うと同情の念も抱いてしまう。というのも、同乗する機長2人がこの副操縦士に呼気検査を正しく受けさせて勤務を中止させていれば、これほどの事件には至らなかったはずであるからだ。
この事件直後に全日空(ANA)やスカイマークでもパイロットの乗務前飲酒が発覚し、パイロットの飲酒問題は世間で大きくクローズアップされることになった。私は飲酒問題の責任は航空業界全体にあり、一丸となって再発防止に取り組む必要があると考える。
有効な飲酒対策を講じてこなかった航空会社
ロンドンの事件では副操縦士は呼気の検査機に息を十分に吹きかけず、検査をすり抜けていたことが判明しているが、このようなことが起こり得ることは乗務員の誰もが知っている。
JALは昨年、呼気検査で19件も不適合者を発生させながら、なぜ国内と同様の検査機を海外にも設置しなかったのか。加えて当該副操縦士の逮捕を受けて、機長2人だけで11時間47分にもおよぶ乗務をさせたことも、安全運航を軽視するものではないか。
労使間には実乗務時間で10時間以上の長距離便では、昼夜を問わず交代乗員を1人加えた3人の編成で乗務しなければならない協定がある。しかし、会社はこれを無視してトイレに行く以外一切の休憩が与えられない長時間勤務(約15時間にもなった)を強いたのである。しかも、ロンドンを夜に出発する完全徹夜のフライトであった。
当該便は途中で緊急事態が起こったり、目的地をなんらかの事情で変更し、さらに長い乗務になったら極めて危険な状況になるところであった。JALはこの事実が報道で明らかになるや「2人だけで乗務させたことは判断の誤り」とコメントしたが、このような運用を従来から何度となく行ってきた前歴がある。
航空業界では過去にパイロットの飲酒による事故もあるが、パイロットの過労によって引き起こされる事故のほうが圧倒的に多い。航空会社は国土交通省との間には、「不測の事態には労使間の協定を超えて2人だけで10時間を超える長時間フライトを実施できる」との「合意」がある。だが、その前提に立っても、フライトが開始される前のトラブルにまで拡大解釈して定刻の出発を決定したことは問題がある。運航乗務員の常識として、「不測の事態」とは戦争やテロによる緊急避難、上空でのパイロットの体調不良等、やむを得ない事態に限られている。