江端 :「今回のインタビューで、最もお伺いしたかったのは、『なぜ、赤松先生は、ご自分の作品のキャラクターを、二次創作同人誌に利用することを許諾されているか』ということです。先生のキャラクターを使って同人誌をつくりたい人にとっては、とても嬉しいことだと思うのですが、先生にはメリットはあるのですか?」
赤松先生:「許諾、つまり、ライセンスとしては、オープンソース(編注:ソフトウェアの設計図に当たるソースコードを無償で公開すること)に関するもの(GPL等)が有名です。ただ、このライセンスは、世界中のエンジニアが協力して、すごい早さで開発・改良が進められることに意義があります」
江端 :「はい。私も自分のページで公開しているコンピュータプログラムのバグを、イラクや中国の人に直してもらったことがあります」
赤松先生:「著作物の場合は、『共感』というか、『共有することの喜び』がメインになると思うのです。自分のつくった作品を使ってもらって、別の人がつくった別の作品を見ることは、とてもうれしいですよ。特に、自分より絵のうまい同人作家に描いてもらえるのは、『名誉』といってもいいかもしれません」
江端 :「しかし、自分の作品とは違う世界で、ご自分のキャラクターが使われることが、不快ではありませんか?」
赤松先生:「いやー、全然、そんなことはありませんね。 私の場合、私のキャラクターたちが、エロで使われようが、グロで使われようが、まったくOKです」
江端 :「……えーっと……(この質問の方向のままではダメだ、と思いつつ) では赤松先生、質問を変えます。赤松先生以外のマンガ家の先生方であれば、どのように感じられていると推測されますか? (我ながら、苦しい質問だなぁ)」
赤松先生:「メジャー誌(ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン)出身のマンガ家の半分は、コミックマーケット (コミケ【注3】)に行ったこともないようです。ですから、『二次創作同人誌への許諾』という考え方自体がないかもしれません」
江端 :「それは……二次創作同人誌の作者には、厳しい現実ですね。では、そのようなマンガ家の先生方は、ご自分のマンガのキャラクターを使われることは、嫌なのでしょうか?」
赤松先生:「マンガ家によって温度差があるので、一概には言えません。ただ、二次創作同人誌を嫌っている先生もいらっしゃるのは間違いないですね。また商業誌の場合、マンガ家自身が気にしなくても、出版社がそのような二次創作を看過できないこともあるでしょう。特にキャラクターグッズ系などです」
●「CVライセンス」とは何か
赤松先生が提唱されている「CVライセンス」とは、Connivanceライセンスの略で、「黙認」をライセンスするというものです。
なんのことやら、まったく訳がわからないと思います。正直、この解説については、私も随分悩みました。
そもそも「ライセンス」というのは、「法律が制限していることに対して、私的自治の原則のもと、その法律に『穴を開ける』ものである」というお話をしました【注4】。ですから、「黙認ライセンス」とは、用語として矛盾を含んでいるともいえます。