筆者に一報が入ったのは、事件後すぐだった。
「ついさっき 、ミナミの宗右衛門で音が鳴り、搬送者も出ているようだ」
これが後にメディアで大々的に報じられた、インターネットカジノ店の発砲事件である。
3月11日午前1時過ぎ、大阪市中央区宗右衛門町にある会員制カジノ店「バーファイブ」で、男が従業員男性と男性客に発砲して重症を負わせ、逃走。現場には回転式拳銃リボルバーが置かれており、同日、姜真一容疑者が殺人未遂容疑で全国に指名手配されることとなった。
事件発生を受けて、ヤクザ業界関係者は一時騒然となった。こんな理由があったからだ。
「大阪に本拠を置く六代目山口組の勢力がミナミを制圧するために、同エリアに進出する神戸山口組陣営に対して、近々なんらかの動きを見せるらしいという噂がたっていた。現に、発砲事件の4、5日前には、六代目サイドの大阪地区に所属する組員らが大勢、ミナミに結集していたことが確認されている。そういったタイミングでの発砲事件だっただけに、一時は業界内が緊迫する事態になったようだ」(地元関係者)
六代目陣営によるミナミ制圧に向けた情報は筆者のもとにも届いており、発砲事件直後は、その関連性について事実確認を急ぐことになった。結果、事件が山口組分裂騒動に絡むものではなかったことの確証を得た。撃たれた男性客は大手企業に勤務する人物だと判明し、個人のフェイスブックも特定できた。姜容疑者にも、警察当局が組員と認定した人物に付ける「Gマーク」が付けられていないことも確認できた。そうした背景から、この発砲事件はヤクザの抗争とは無関係で、二次被害が出ることはないだろうと予想したのだ。
しかし、現場となったミナミは、事件後も不穏な空気が漂い続けることになる。
「神戸山口組の屋台骨といえば、五代目山健組だ。その山健組の警備にあたる組員らに突如、防弾チョッキの使用が命じられたというのだ。同時に、六代目側の一部からは『山健組はまだ諦めていない、身辺には気をつけるように』との声が出ているなんて話も飛び交い、両組織がミナミで激しくぶつかり合うのではないかと警戒する事態になった」(捜査関係者)
この話は、すぐさま関係者の間で拡散された。分裂騒動に終止符を打とうとする六代目山口組と、それに対して徹底抗戦の構えを見せる神戸山口組が、やはりミナミで激突しそうだという話が信憑性を持って語られるようになったのだ。すでに両陣営の間では小競り合いが発生しているという情報が、それに拍車をかけたのである。一方で、こうした見解を示すジャーナリストもいる。
「大阪府は6月にG20サミット首脳会議が控えています。そんな時期に両組織による激しい衝突が起きれば、警察当局は取り締まりを徹底的に強化させ、組織の中枢の摘発などをするでしょう。そうなると、共倒れになりかねない。確かに不穏な空気は漂い続けていますが、両組織による大きなぶつかり合いは、避けられるのではないでしょうか」
それでも、筆者のもとに神戸山口組サイドから漏れ伝わってくる最新の声は、限りなく好戦的なものだ。対する六代目山口組サイドも、ミナミ制圧の機運は高まったまま。最近は水面下で繰り広げていた分裂騒動に関連する攻防が、ここにきて一気に表に噴出する可能性が出てきた。予断を許さない状況だ。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。