江端:「な……なるほど。『全世界オタク化計画』ですね。壮大な世界平和戦略だと思います。しかし、先生の構想では、日本人の、しかも若者の多くが、プロのマンガ化やアニメータを目指すことが前提になると思いますが、現実にそのような人は多いのでしょうか」
先生:「いえ、今や『マンガ家になって、大金持ちになる』という考えは古いようです。アマチュア指向が、今のマンガの世界のトレンドです」
江端:「それは、なぜでしょうか」
先生:「いいことが少ないからです。読者から批判されて、編集部から書き直しを命じられて、ボツにされて、自分の意に反したものをつくらされた挙げく、それが『売れない』では、いったい何をやっているのか、わかりません」
江端:「それは、そうでしょう(と、何度も深くうなづく私)」
先生:「アマチュアのままでいれば、まあ、それでも、読者からの批判がなくなるわけではないでしょうが、自分の描きたくないものを描かされるということや、ボツにされるということはありません。別に出版社に頼らなくても、誰でもネットで公開することができるのですから、プロとして活動する意義が、なくなりつつあるのです。しかし、それでも裾野は広がり続けます」
江端:「本日は、長い時間インタビューに応じていただきまして、誠にありがとうございました。それでは、最後に先生の思いを、ひと言でお願いします」
先生:「『今のままでいい。私たちに手を出すな。放っておいてくれ』です。私は、『今のまま』が好きなので、TPPによる非親告罪化は迷惑なんです。『今』を壊そうとするすべてのものに対抗するために、私は、日々活動を続けています」
●追記
本インタビューは、2013年5月25日にさせていただいたのですが、赤松先生は、私がモタモタしている内に、この「CVマーク」を発展させた、「同人マーク(仮)」というものを実現されてしまいました。[(仮)というのは、後で正式名称を決めるということでしょう]。
しかも、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)の活動母体であるコモンスフィアが、推進しています(注2)。私がシンポジウム(注3)を聴講した時は、「ローカルルール(日本だけのCCマーク)をつくるのは難しい」というようなコメントをされていたように思うのですが、こんな短い期間で実現にこぎ着けるとは、見事なお仕事だと思います。
リリース記事を読んでみたのですが、「同人マーク(仮)」の趣旨については、原則として本コラムの「CVマーク」と概ね同じようです(詳細については違いがあるようですが、今回は割愛します)。
「同人マーク(仮)」に関しては、びっくりすることばかりなのですが、私がとどめを刺されたのは、この一文です。「このプロジェクトは講談社公認。赤松氏は、今後『少年マガジン」で発表される新連載から『同人マーク(仮)』を使用していくとのことだ」(注4) 。
つまり、出版社が、この「同人マーク(仮)」を公認することになったのです。
ここに、TPPによる非親告罪化に対して、コミケの創作を守る布陣(二次創作同人誌の作者、マンガ家、出版社)の役者が揃ったことになります。
●謝辞
本連載コラムに関しまして、メールでの質問のご回答、インタビュー、および本原稿のチェックのみならず、原稿の修正作業までして頂いた赤松健先生に、この場を借りて、心からの感謝を申し上げます。
また、インタビューでお伺いした、赤松先生のご経歴、TPP、児童ポルノ禁止法改正案のご見解、および、コミックマーケットの関係者の日常と非日常、先生が実施されているコンテンツビジネスのお話に関しましては、今回、涙を飲んで割愛しました。チャンスがありましたら、記載させて頂きたいと考えております。
(文=江端智一)
※本記事へのコメントは、筆者・江端氏HP上の専用コーナー(今回はこちら)へお寄せください。
(注1)“違法な”同人誌はなぜ放置されている? 600億円市場に突然警察介入の可能性も…参照
(注2)「同人マーク(仮)」のデザイン案の募集のお知らせ http://commonsphere.jp/archives/286
(注3)文化庁主催 第8回コンテンツ流通促進シンポジウム「著作物の公開利用ルールの未来」
(注4)「二次利用には同人マーク」