東京地検特捜部は28日、元財務副大臣で公明党の元衆議院議員、遠山清彦氏らを貸金業法違反罪で在宅起訴した。一連の疑惑に関する特捜部の捜査が決着を見た形だが、前日の27日、霞ヶ関の司法記者クラブではこの“特捜部による在宅起訴”をめぐってひと騒動起こっていた。共同通信が“事実より1日早く”、特捜部の在宅起訴を報じてしまったのだ。
司法記者クラブに届いた遠山氏のコメントが発端
騒動の顛末は同日午後7時50分、共同が配信した記事『共同通信が遠山元議員記事で誤報「在宅起訴」』で詳報されている。同報道によると、同日午後、霞ヶ関の司法記者クラブの幹事社宛に「検察官から起訴手続きを行ったとの通知を受けました」との遠山氏のコメントが届いたのだという。共同は「在宅起訴の情報を法務検察関係者からも得たため」、特捜部が遠山氏ら4人を「在宅起訴した」と報じたのだという。
その後、遠山氏の弁護士事務所からこのコメントが送信ミスだったという訂正連絡が記者クラブの幹事社にあり、在宅起訴は誤報であることが判明。同日午後4時に記事を取り消した。
全国紙社会部記者は話す。
「各社とも起訴のタイミングを見計らって、準備をしていました。共同の報道にあるように、遠山氏のコメントが記者クラブの幹事社に届いたので、検察担当者が事実確認に走り回ったようです。しかし『すでに起訴した』という内容ではどうにも裏が取れない。『誤報ではないか』という話をしているところで、共同さんの記事がフライング配信されてきたのです」
捜査が大詰めを迎えていることは報道各社にとって周知の事実で、それが何日なのかということが問題だったということだろう。だが東京に自社の独自の取材源を持たず、共同通信から特捜部のニュース配信を受けている地方紙は冷や汗ものだったらしい。共同から配信を受けている地方紙整理部デスクは憤る。
「朝刊社会面トップ級のネタで、この誤報はあり得ないですよ。少なくともウェブ上では配信してしまいましたしね。朝刊が刷られてからでは目も当てられない大惨事でした。読者にとって、共同配信の記事か独自記事かは関係のないことです。題字を掲げている“うちの新聞”が間違えたことになりますから」
「速報性>取材深度」
結果論として特捜部は翌28日に遠山氏を在宅起訴した。とはいえ、「1日早かっただけ」で済む話でもないだろう。別の全国紙社会部記者は以下のように自嘲気味に語った。
「(事件・事故)発生、逮捕、起訴といったネタの速報性はメディアにとって極めて重要な“売りもの”です。どの記者もいつでも速報が打てるように、“引き金”に指をかけた状態で日々、取材をしています。新聞より通信社は速報性が求められているので、現場にはプレッシャーがかかっていたのかもしれませんね。(公官庁などの)発表前に、1分1秒でも早く報じることが“スクープ”だと信じて疑わない幹部も多いですから。つまり、“どこの社が書いても同じ内容の記事を、多少の正確性は犠牲にしても、いかに他社より早く出すのか”という古くからある話なのだと思います。メディアにはびこる“速報第一主義”は根深いと思います。
速報性もさることながら、こうした社会面マターの記事は取材の正確性と深度こそ、他社と差をつけるものだと思っています。仮に『逮捕』『起訴』の一報を打つタイミングで他社と横並びになったとしても、事件の構造や背景、その事件が与える社会的な問題点などを、どれだけ詳報できるかが記者の腕の見せ所だと思うのですが」
(文=編集部)