このほか、巧妙化の手口としては、「中身と包装やロゴシールなどを別々の場所で製造し、販売時に合わせる(18.6%)」、「摘発を逃れるために、在庫を貯めず次々と出荷しているため、証拠品を押収できない」(16.5%)、「正規品であることを示す識別シールを模造して貼付」(14.6%)などがあげられている。
●一度摘発しても再犯を抑止できない
中国では、一度処罰されても、再び模倣品の生産を繰り返す事案が後を絶たず、大きな問題となっている。しかも再犯事例の多くは、同じ場所で模倣品の生産を再開しているが、最近は、当局の摘発を逃れるために再犯者の手口も巧妙化している。
摘発されやすい日中は正規品を製造する業者を装い、夜間や休日に模倣品の製造を行って当局の摘発を逃れている業者や、また、行政取締当局が、原則として、民家への立入捜査を行う権限を有していないことに目をつけて、工場ではなく、摘発されにくいマンションなどの民家で模倣品を製造する業者もいる。
また、中国では、違法経営額(5万元=約80万円)を超えない侵害行為は、行政上の摘発は可能でも、刑事罰の対象とならないことから、模倣品の生産量・在庫量・販売量を小口化したり、証拠となる帳簿を記載しなかったりする業者も増えている。このような業者は、仮に摘発されても、処罰が軽いケースが多いと報告されている。
中には、各省、各地方執行当局間の連携体制が未整備なことにつけ込み、生産場所を転々と変えて、模倣品を製造し続ける業者もいる。こうした地域を跨ぐ再犯については、仮に摘発されても、侵害者のデータが未整備なこともあり、再犯者として厳罰に処される可能性は極めて低いのが現状だ。
特に最近では、日本企業の申し立てにより行政摘発が行われた後、模倣品業者に処罰決定が下されるまでの間に、模倣品を持って逃亡するという例が数多く報告されている。しかも、内部規定により、逃亡者には処罰を下さないという地方執行機関もあり、この場合には、仮に再び模倣品業者が侵害行為を行って摘発されても、初回摘発時に処罰が下されていないため再犯行為に当たらず、逃亡者の逃げ得となっている。
このように中国では、再犯行為が横行しており、その要因として、(1)行政罰において、再犯行為に対する重罰規定が整備されていないこと、(2)刑事訴追基準の運用が、地方ごとに不統一で、刑事移送される侵害行為が極めて少ないこと、(3)模倣行為で得た利益に比べて過料が低いことから、抑止効果が働いていないこと、(4)さらには、摘発した模倣品製造業者の侵害履歴を適切に管理するシステムが未整備であること–などが挙げられる。
また、模倣品製造業者は、行政罰をビジネスコストのひとつと考えており、“罪の意識がまったくない”ことも、再犯が絶えない要因だ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)