昨年10月初めに就任わずか1年で退陣した菅義偉前首相が、このところ活動を活発化させ、注目を集めている。昨年末から新聞のインタビューやテレビ番組にたて続けに出演し、年明け1月は、産経新聞、TBS、菅氏の地元の神奈川新聞などに登場。持論である「行政の縦割り打破」など、今後も取り組みたい政策について熱く語っている。
こだわっているのはやはり、自身が新型コロナウイルス感染拡大対策の切り札として注力した「ワクチン接種」についてだ。例えば、産経新聞では次のように話している。
<新変異株「オミクロン株」が拡大し感染者が増えていますが、岸田文雄政権はやはり(ワクチンの)3回目接種と治療薬の手当てを早く進めるべきです。(自治体での接種も)できるところは早く接種を始めたほうがいいと思います>
自らの実績をアピールするとともに、岸田首相への不満を垣間見せたのだった。菅氏が自らのワクチン政策を自画自賛するのは最近になってのことではない。退任直前の会見でも「1日100万回を退路を断って実現した」などと胸を張っていた。退任直後の10月の衆院選でも「ワクチン接種に全力を尽くした。正しい判断だった」と街頭演説をしていた。
もっともその当時は、「国民の支持を失って退陣せざるを得なくなった前首相が何を言っているのか」と世論からも与党内からも冷ややかな視線が注がれていた。
後手後手の岸田政権
しかし、ここへきて菅氏に対する空気が変わってきた。背景には、岸田政権のワクチン3回目接種の遅れがある。
新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株が猛威を振るうなか、世界中で3回目接種が加速しているのに、日本は「2回目から8カ月後」という原則が維持され、医療従事者や特例として「6カ月後」に前倒しされた高齢者施設の入居者ですら、満足に接種が進んでいない。
昨年12月末までには104万人の3回目接種が完了しているはずだったのに、結局、100万回に達せず、目標を超えたのは1月14日だった(約112万回・首相官邸発表)。沖縄県、広島県、山口県に「まん延防止等重点措置」が出されるなどオミクロン株による「第6波」の感染拡大が顕著となり、3回目接種の遅れが専門家やメディアに指摘され始めると、岸田政権はようやく慌て出し、高齢者接種の前倒しの加速だけでなく、一般接種の前倒しも打ち出した。
「Go To キャンペーン」に固執するなどコロナ対策が「後手後手」となり世論の支持を失った菅前政権を反面教師にして、岸田首相は「先手先手で対応」と繰り返してきた。ところが、ワクチン3回目接種では菅政権以上に「後手後手」だったわけだ。
「岸田文雄首相はワクチン政策を厚労省に任せっぱなしで、厚労省はワクチン供給が見通せていなかったこともあり、前倒しに消極的で動きが鈍かった。菅義偉政権では河野太郎ワクチン担当大臣が厚労省とは別にガンガン動いていたが、岸田政権の堀内詔子ワクチン担当大臣はまったく存在感がない。菅政権だったらワクチン3回目接種ももっと早かっただろうと、菅前首相を『再評価』する声が出てきています」(自民党関係者)
菅氏に関しては、「派閥結成」の動きも囁かれている。菅氏に近い「ガネーシャの会」や「参院有志の会」には無派閥議員約30人が参加している。メンバーのなかには、岸田政権がコロナ対応に失敗する可能性も視野に入れ、早めの派閥化を求める声もある。菅氏本人も神奈川新聞のインタビューで、「行政の縦割り打破」を目指す議員グループの結成に意欲を示した。
「菅氏は官房長官時代から、岸田氏の能力に懐疑的で、岸田氏をまったく評価していない。ワクチン接種の遅れも『それ見たことか』と思っているのでしょう」(前出の自民党関係者)
二階派や森山派、石破グループら「非主流派」での連携も深めている菅氏は、復権に虎視眈々。再びキーマンに躍り出る日が来るのか。
(文=編集部)