ヤクザ社会に激震が走った。神戸山口組の中枢組織、五代目山健組の與(あたえ)則和若頭が4月18日午前0時すぎ、神戸市中央区にある飲食店を出たところを襲われるという事件が起きたのだ。與若頭は一命をとりとめたが、腰や肩などを包丁で刺され、重傷を負った。
山健組といえば、五代目山口組時代「山健にあらずんば山口組にあらず」とまでいわれた強大な組織。弘道会の影響力が高まった六代目体制になると、2015年にそれに反発した山健組を中心とする勢力が割って出て神戸山口組を結成。今日の分裂騒動のキーとなっている武闘派組織だ。その組織のナンバー2となる若頭が刺された。
與若頭を刺した犯人は、その場から逃走したのちに警察署へ出頭。事件に関与したとして逮捕された2人は、六代目山口組系組員だった。
「逮捕された被疑者らは、現在、勢力を著しく拡大させている野内組(六代目山口組三代目弘道会)の組員だったようだ。そこから神戸山口組、そして任侠山口組へと渡り歩いていたと聞いている。去年暮れには任侠山口組から野内組へと大勢の組員が移籍したこともあったので、野内組の組織的関与、個人間のトラブル、その両面で現在、慎重に捜査が進められている」(捜査関係者)
一方、若頭が刺された山健組では、すぐに待機命令が出されたようだと関係者らは口にしている。
「先日、行われた山健組の定例会では、上層部から『こちらから仕掛けることはないが、仕掛けられれば遠慮することはない』といった内容の話があったようで、その前の定例会でも『使用者責任について、気を使わなくてもよい』とする主旨の話もあったと言います。それだけに今回も、組織的な、例えば分裂騒動に端を発した事件であることが判明した場合、すぐさま報復に移る可能性があるのではないかと緊張が高まっています」(ジャーナリスト)
3月半ば頃、こんな声が六代目山口組サイドの一部から漏れ伝わっていると話題になったことがあった。六代目山口組内では、すでに分裂騒動に勝利宣言をしているような空気があるが、一方で「山健組は諦めていない。油断はするな」といった警戒心を強める声が出ていたのだ。ちょうどその頃、大勢の山健組系組員らが大阪随一の繁華街・ミナミに集結し、その勢力を誇示する示威的行為を行ったこともあった。
「集まった組員は約150人。他の勢力と衝突するような事件こそ起きなかったものの、これを見た神戸山口組の組員らの士気が上がったといわれていた。何かあれば、すぐにこれだけ大勢の組員が集まってくれるのだと。それだけに、この行為が六代目山口組サイドを刺激した可能性もあるのではないか」(地元関係者)
現在、業界関係者の間では、当然のように山健組がなんらかの報復に出るのではないかと囁かれている。被害者が組織を代表する大物だけに、予断を許さない状況は続いている。
(文=沖田臥竜/作家)
●沖田臥竜(おきた・がりょう)
2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、『山口組分裂「六神抗」』365日の全内幕』(宝島社)などに寄稿。以降、テレビ、雑誌などで、山口組関連や反社会的勢力が関係したニュースなどのコメンテーターとして解説することも多い。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任侠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新刊は、元山口組顧問弁護士・山之内幸夫氏との共著『山口組の「光と影」』(サイゾー)。