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ピタゴラス、人間とマメが同一起源であることを示す科学的実験

文=水守啓/サイエンスライター
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ヴェジタリアンはさまざま

 近年、世界的にヴェジタリアン(菜食主義者)が増えている。菜食にこだわる理由は人それぞれだ。意識を持った動物を食用に殺すことが耐えられないからだと言う人もいれば、消化における胃腸への負担軽減など、健康を気遣いたいからだと言う人もいる。玄米菜食等を継続的に食べさせる実験から、菜食は人の攻撃性を抑え、性格を穏やかにするからだと言う人もいるかもしれない。

 また、農耕地の確保のために進められる森林伐採の主要な背景には、人間用の食料ではなく、その4~10倍も消費する食肉動物用のエサの生産があることに加え、家畜飼育で多大な水も消費されていることを指摘する人もいるだろう。人為的なメタン排出のうち37%は家畜のオナラやゲップに起因するといわれ、地球温暖化と環境破壊を食い止めるためにも、我々は肉食を減らすべきだと考える人々は増えているのだ。

 こうした理由は現代ならではといえるが、菜食の幅はまちまちである。卵や乳製品、蜂蜜などを口にするヴェジタリアンもいれば、それら動物性食品はまったく口にしないヴィーガンと呼ばれる人々もいる。その相違には、最初に挙げたような「動物の殺生」の問題は直接関与しない。有精卵を食せば殺生になるものの、無精卵を食しても、乳製品や蜂蜜を摂取しても殺生にならないからである。動物性食品を口にしないヴィーガニズムは、「人間は動物を搾取することなく生きるべきだ」という考えに基づいており、殺生がなくても動物性食品を口にしないという。

 だが、実際のところ、生態系の維持や動物愛護という基本的な点において、ヴェジタリアンもヴィーガンも無頓着な人が多く、人に害をもたらさないような一部の動物だけを可愛がろうとする傾向が見られる。どのレベルまで動物性食品を除外するのかといった点も合わせ、菜食の幅は個人の主義主張に依存し、一般に知られる分類はあまり有意な基準ではなさそうである。

マメは特別なのか?

 菜食主義は、紀元前7世紀に生命への寛容を教えていたインダス文明に見られ、インドではその後も広がり、長きにわたって実践されてきた。西欧では、紀元前6世紀の古代ギリシアで実践され、数学者・哲学者のピタゴラスが創設した教団では、動物を殺すことは殺人に、食肉は食人に等しいと考えられていた。ピタゴラスと彼の弟子たちは1日2食で果物、野菜、穀物、蜂蜜だけで生活していたとされる。ちなみに、ピタゴラスに強い影響を受けたプラトンは、生涯、肉も魚も口にしなかったといわれている。

 さて、ピタゴラスは蜂蜜を食していたため、現代で言うところのヴィーガンほど厳格ではなかったといえる。だが、不思議なことに、ピタゴラスはマメを控えるように弟子たちに説いていた。しかも、マメを食べないだけでなく、手で触れることもしなかったという。なぜなのだろうか?

ピタゴラス、人間とマメが同一起源であることを示す科学的実験の画像1豆から顔をそむけるピタゴラス

 この謎に関しては、多くの賢人らが独自の推論を展開してきた。

 古来マメは性器や胎児と似て、生命の潜在力が秘められているとも信じられていた。つまり、霊魂の再生(輪廻)を連想させたのだ。ピタゴラスは、人間とマメが同一起源であることを示す科学的な実験を行っている。いくつかのマメを泥の中に埋め、数週間後にその姿を観察して、それが人間の胎児に似ていることに気付いたのである。

 また、ソラマメは黒い斑点を伴った花を咲かせ、茎は中空となっている。その茎は人の魂を昇らせる梯子の役目を果たし、やはり再生を連想するとされ、ピタゴラスの弟子たちはソラマメがギリシア神話の冥府の神ハーデースと関わっていると信じていたことが古代ローマの博物学者・政治家・軍人のガイウス・プリニウス・セクンドゥスによって記録されている。アリストテレスは、マメの丸みを帯びた形が宇宙全体を表し、それが理由でピタゴラスはマメを食べなかったのではないかと言った。

珍説にも一理あり?

 一方、そんな深い意味はなかったのではないかという説もある。マメは古代ギリシアにおいては選挙票として利用され、白いマメがYESで黒いマメがNOを意味した。そのため、食品以外の用途のためにマメは利用されたからだというのだ。

 また、紀元前1世紀の政治家・文筆家・哲学者のマルクス・トゥッリウス・キケロは、著書『予言について』において、単にガスが溜まるからピタゴラスは食べなかったのだろうと記している。

 だが、忘れてはならないことがある。実のところ、日本では毒性の強いマメは少ない(白インゲンは毒性が強いことは知られている)が、地中海沿岸各地、北アフリカ、中央アジアなどでは決して珍しくないのである。例えば、ソラマメは致死性の中毒をもたらすことが古代エジプト人同様、ギリシア人には知られていた。ピタゴラスは生食サラダを好んだと言われているため、加熱が必要なマメ類は避けたのかもしれない。

 とはいえ、ピタゴラスが弟子たちにマメを控えるように言っていた一方で、食事に関する論考においてマメについて何も言及していなかったという。そこで、ピタゴラスは実はマメを好んで食べていて、中毒を起こしがちだったゆえに、弟子たちには控えるように言っていたのではないかという珍説もある。日頃、ピタゴラスは弟子たちに政治にのめり込まないように助言していたというが、それは自分がマメを食べ過ぎて体験した中毒とダブらせて語っていたのかもしれない。

 今となっては、真相は謎のままであるが、食に関する統一見解はそう簡単に見つかりそうにない。
(文=水守啓/サイエンスライター)

水守啓/サイエンスライター

水守啓/サイエンスライター

「自然との同調」を手掛かりに神秘現象の解明に取り組むナチュラリスト、サイエンスライター、リバース・スピーチ分析家。 現在は、千葉県房総半島の里山で農作業を通じて自然と触れ合う中、研究・執筆・講演活動等を行っている。

著書に『底なしの闇の[癌ビジネス]』(ヒカルランド)、『超不都合な科学的真実』、『超不都合な科学的真実 [長寿の謎/失われた古代文明]編』、『宇宙エネルギーがここに隠されていた』(徳間書店)、 『リバース・スピーチ』(学研プラス)、『聖蛙の使者KEROMIとの対話』、『世界を変えるNESARAの謎』(明窓出版)などがある。

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