金、金、金…マネロン疑惑にミセス京都不正 自民党京都府連でスキャンダルが続く理由
筆者が「文藝春秋」(3月号)で報じた自民党京都府連の選挙買収問題がいまだ鎮火しない。近く京都の弁護士らによって、自民党京都府連会長である西田昌司参議院議員などが刑事告発されることになり、今後「選挙と金」をめぐる動きについて捜査のメスが入るのかに注目が集まっている。
「文藝春秋」の記事では、京都における国政選挙において自民党候補者が選挙区内の府議・市議に京都府連を通じて50万円を配っていた“選挙買収疑惑”を報じ、元府連事務局長が作成した“引継書”では、この一連のスキームを「マネーロンダリング(資金洗浄)」と表現されていたことも明らかにした。
この「選挙買収」問題は国会でも議論となった。二之湯智・国家公安委員長(参院京都選挙区)は2016年参院選において、府連を通じて金を配布していたことについて野党から激しく追及を受けた。二之湯氏は選挙買収を否定しながらも、「(960万円は)私の思いで寄付をさせていただいた」と、あいまいな答弁を繰り返したことで国会が紛糾。国家公安委員長は全国の警察庁を所管するポジションであり、選挙違反を摘発する側のトップとしてその資質が問われる事態となっている。
2月13日には苦しすぎる言い訳が公開された。西田氏が動画投稿サイト・YouTubeの自身のチャンネルで、「文藝春秋」の記事に対して「事実無根」というタイトルをつけ「極めて公平性を欠き、事実に反している」と反論する動画を公開したのだ。西田氏は政治資金の流れは政治資金収支報告書に記載され、法にのっとって行われているなどと強調し、「買収する動機も必要もない」と反論したのだ。
しかし「西田氏はYouTubeで一方的に持論を語っただけでは説明責任を果たしたとはいえない」(社会部記者)との批判の声があがっている。
じつは自民党京都府連は選挙買収以外にも数多くの“問題”を抱えている組織なのである。本稿ではその実態を振り返ってみたいと思う。
“ミセス京都”市議の政務活動費不正
まず、昨年12月8日に『「私を隠れ蓑にして」“ミセス京都”市議の政務活動費不正を夫が実名告発』という記事が「文春オンライン」で配信された。元ミセス京都のファイナリストだった自民党・豊田恵美市議が、事務所職員だった夫がけがで働いていない期間に政務活動費から給与を不正支出していた疑いを報じたのだ。
「豊田氏の疑惑は夫が告発し記者会見をしたことで、ミセス京都の元ファイナリストという話題性もあり取材が過熱した。地方議員の政務活動費の使い方は定期的に問題になるテーマです。
『政治とカネ』の問題がたびたび語られるなか、地方議員の政務活動費は、ほんとうは議員が好き勝手使える“財布”代わりになっているのではないか、という疑問もあり、メディアで大々的に報じられることとなったのです」(社会部記者)
京都市議会は17日、豊田議員に対する問責決議案を全会一致で可決。決議では「議会及び議員の品位と名誉、市民の貴重な税金を原資とする政務活動費制度の透明性向上に取り組んできた市会の信頼を著しく損なった」とし、豊田議員も「深く受け止め、仕事で信頼回復していきたい」と謝罪した。同問題に対しては京都府連が指導力を発揮できなかったこともあり、中途半端な幕引きに終わった感が拭えないまま収束してしまった。
同じ昨年12月に、今度は京都府議である岸本裕一氏が公職選挙法違反の疑いで書類送検されたという報道が出た。容疑は岸本府議が昨年10月の衆院選で選挙運動の見返りに報酬を支払う約束をした疑いだった。この不祥事発覚時は、筆者がちょうど京都府連の“選挙買収”疑惑の取材に着手しようかという時期だった。京都府連の選挙活動に問題があったことは、この公選法違反事件から感じ取ることができた。
「岸本府議は衆院選公示前、運動員の女性3人に対し選挙期間中に勝目氏への投票を有権者に呼び掛ける『電話作戦』をしてもらう見返りとして、1時間当たり1000円の報酬を支払う約束をしたとされています。公選法は、ウグイス嬢と呼ばれるアナウンス担当運動員など一部の例外を除き、選挙運動のスタッフに報酬を支払うことを禁止しているため捜査対象となった。岸本府議はもともとトラブルが多い人物で、初当選前に無免許運転を繰り返していたとして罰金刑をくらっていたことも報道で明らかになっていました。府警から常にマークされる存在で、とうとう今回の選挙でその脇の甘さを露呈してしまったのです」(社会部記者)
岸本府議は、政界を引退した伊吹文明元衆院議長の後継として京都1区で初当選した自民新人、勝目康氏(47)の陣営の一員だったことで、「どこまで捜査の手が伸びるのか?」(同前)という点も注目された。その後、岸本府議は府議会の自民党会派を離脱し、府議も辞任した。京都府連の田中英夫幹事長は「法令遵守は当然のことだ。府議としての身の処し方は、個人として決められたと承知している」とコメントしたが、府連としてコンプライアンス遵守の姿勢に疑問が残った事件だったとえいよう。
過去にも選挙買収疑惑が
京都府連には不祥事が付き物だとも言える。2019年5月には地元紙である京都新聞が「門川氏母体 自民議員秘書に現金 2016年の京都市長選 5人に最高45万円」というスクープを報じた。これは2016年2月に行われた京都市長選で、当選した門川大作市長の選挙母体「未来の京都をつくる会」が、選挙に関わった自民党の国会議員秘書5人に「労務の対価」の名目で現金を支出していたこともの。最高で45万円が支払われたケースもあり、公職選挙法における運動員の買収疑惑を指摘したスクープだった。
この問題について当時の府連会長だった二之湯智参議院議員(現・国家公安委員長)「法的に問題はない」とコメントを残していた。国政選挙に限らず地方選挙でも京都では常に選挙とカネについての疑惑が燻っているという点は、京都府連の体質ともいえるだろう。
政務活動費流用疑惑に、公職選挙法違反、選挙買収疑惑と自民党・京都府連では21年12月~22年1月にかけてのたった2カ月で、計3回もの“カネ”にまつわる不祥事が連続して起きていた。選挙絡みの疑惑も、ここ数年で何回も起きていたことは前述の通りである。そしてそれぞれの問題に対し二之湯智前会長、そして西田現会長が、明確なケジメをつけてこなかったことも事件が続発する大きな理由となっている。
「近年の府連は二之湯氏、西田氏という選挙買収で疑惑の矢面に立たされている二人が会長職を務めてきました。なかでも西田氏は8年近く会長職に君臨するなど長期政権を築いてきた。西田会長が長く続いたことで京都府連はおかしくなってしまったという声は少なくない。元事務局長は引継書に『この世界、どうして「お金!」「お金!」なのかは分かりませんが』と書いてましたが、起きている不祥事はまさに“金”絡みばかり。政治への思いよりも、目先の利益に走るような議員が多くなってしまった」(京都府連関係者)
その体質を変えるためには抜本的な改革が求められる。
(文=赤石晋一郎/ジャーナリスト)