「開発から28年になりますが、今回の事故多発で注目されたのか、注文がかなり増えています。岡山県美咲町など補助を出す自治体も出てきました。東京も検討しているようです」(同社の荒田晃慎氏)
6月7日に筆者が同社に電話した時も鳴瀬社長は取材応対中だった。
そもそも原因はオートマ車の普及
踏み違いの根本原因はオートマチック車だからだ。マニュアル車はクラッチ操作があり発進にも手間がかかる上、クラッチを切らずにアクセルを踏めばエンストする。しかしオートマチックは発進が「ワン動作」で誤操作しやすい上、D(ドライブ)ではエンジンと駆動輪はつながるためアクセルを踏まなくともブレーキを離していると動き出す。これに慌ててブレーキと間違えてアクセルを踏むことも多い。
筆者は停車時、N(ニュートラル)に入れてサイドギアも引く。ニュートラルではわずかな傾斜でも滑り出すからだ。普段、クラッチ操作の必要な大型バイクに乗るのでこうした癖があるのと、ドライブではニュートラルよりガソリンを消費する気がするからだ。もちろん、エンジンを切ってしまうことも多い。
とはいえ乗用車のオートマチックは大昔から普及している。バスやトラックはマニュアル車が多かったがバス会社や運送会社が最近の運転手不足からオートマチック車に換えつつあることも、神戸市の事故などの原因だとみられる。
「坂道発進が難しい」「エンストする」などでマニュアル車運転が苦手な人も多く、国はかなり前にオートマチック車運転に限定した免許証をつくった。「マニュアル車が運転できない人に免許などやるな」と思ったものだが、要は「車を売らんかな」優先が招いた「積み残し課題」でもある。
「訴訟恐れ」のハイテク優先
ナルセ機材の荒田氏は、「踏み違い事故はマニュアル車からオートマ車になる頃に多発した。その頃に、クラッチが消えたスペースを使ってブレーキとアクセルを離すなど対策がとれたはず」と振り返る。
国交省やメーカーがローテクよりハイテクを優先することについて荒田氏は「電子制御をメーカーが進めたがるのは、多種類の車に装備でき量産できるから。ワンペダルは車の形状に合わせなくてはならず、受注生産に近くなってしまうのです」と話す。
一方、香川県在住の自動車事故鑑定人の石川和夫氏は「2つのペダルを踏み分けて真逆の働きをさせる構造を今さら変えれば、『今まで何をしていたのか』という批判や、運転ミスとされた人から構造欠陥と訴訟を起こされるのをメーカーは恐れているのです。コンピューターなどを使う開発なら産官学に広がるため国は歓迎するのでしょう」と指摘する。
「自動車が発明されて100年以上たつのに、アクセルとブレーキは進化してなかったようですね」との荒田氏の言葉は印象的だ。国やメーカーは「高齢者」を強調する前にすべきことがあったはずではないか。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)