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いとも容易に武力攻撃されると判明した日本の「原発」は、もはや捨てるしかない

文=明石昇二郎/ルポライター
いとも容易に武力攻撃されると判明した日本の「原発」は、もはや捨てるしかないの画像1
東北電力の東通原発と、その沖合に停泊している巡視船(2006年4月、筆者撮影)

世界初「戦場に建つ原発」

 ウクライナに侵攻しているロシア軍が、原発への攻撃を繰り返している。

 まずは、1986年4月に大事故を起こしたチェルノブイリ原発を2月24日に占拠。続いて1週間後の3月4日、総出力600万キロワットでウクライナ最大規模のザポリージャ原発を攻撃の末、占拠・強奪した。チェルノブイリ原発では発電をしていないものの、ザポリージャ原発はウクライナの電力需要のおよそ2割を賄っているとされる。

 武力紛争時における国際人道法「ジュネーブ諸条約」では、危険な力を内蔵する工作物――つまりダムや堤防、原発など――に対する攻撃を禁じており、ロシアもウクライナもこの条約を批准している。にもかかわらず、ロシアは禁じ手であることを承知の上で、原発を攻撃した。明白なジュネーブ諸条約違反である。国際法をあからさまに無視する“ならず者国家”が21世紀に出現することなど、誰が想定できていただろうか。もしできていたならば、地球上に400基を超える原発が建てられることもなかっただろう。

 そもそも原発は、紛争地帯や戦場で稼働することまで想定している施設ではない。従って通常の原発には、ミサイルや爆撃機、戦車などによる戦禍を防ぐ手立ては用意されていない。あっても「テロ対策」として若干の火器が置かれているくらいだ。

 だがロシア軍は、そんな原発に対して危害を加えた。その結果、チェルノブイリ原発とザポリージャ原発は、世界初の「戦場に建つ原発」となった。本稿を執筆している3月15日現在、環境への放射能漏れは確認されていないものの、なにせ戦時中なので確認の術も限られており、今後は保証の限りでない。

日本の原発が“標的”にされる可能性

 翻って、戦時中ではない日本に建つ原発の防衛はどうなっているのか。ちなみに、日本の原発は例外なく、海沿いに建てられている。そのため、海上保安庁の巡視船等が原発の沖合に24時間体制で停泊し、警備に当たることになっている――とされる。

 本稿冒頭の写真は、東北電力の東通(ひがしどおり)原発(青森県下北郡東通村。運転停止中)と、その沖合に停泊している巡視船だ(2006年4月、筆者撮影)。15年ほど前に撮った写真だが、この間、日本が「戦時中」になったことはないので、巡視船の数が格段に増やされているという話も聞かない。

 少人数のテロリスト部隊相手ならともかく、国対国の戦争となった際、占拠や強奪、破壊を防ぐことは実際に可能なのか。そもそも、巡視船1隻で充分と言えるのか。ウクライナの原発がそうであったように、“敵国”は何の予告も前触れもなく原発を急襲してくるのである。

 気になることは他にもある。ロシア軍がウクライナに侵攻した後の3月10日から11日にかけ、ロシア海軍の艦艇10隻が日本の津軽海峡を通過した。津軽海峡は、一般の船舶ばかりか軍艦の航行も認められている「国際海峡」である。これまでにもロシアや中国の軍艦の航行が確認されているが、そんな津軽海峡に面して建つ原発もある。電源開発の大間原発(青森県下北郡大間町。建設中)だ。

 そうした海沿いの原発を攻撃するのは、ウクライナの原発以上に容易い。原発をただ破壊することだけを考えるなら、戦闘機やミサイルを使わなくても、水面下から潜水艦が放つ魚雷一発でオペレーションは完了する。占拠や強奪まで考えているなら、もう少し手間のかかるオペレーションになるのだろうが。

 そうした事情を多少でも知る者にとって、ロシア海軍による“デモンストレーション”は、タイミングがタイミングだけに、日本の原発が事実上“丸腰”である現実を思い知らせてくれる、この上ない“恫喝”になっていた。

原発は、自国に向けられた“核兵器”

 なぜ、ロシアのプーチン大統領は、チェルノブイリ原発ザポリージャ原発への攻撃を命令したのか。それは、原発がその国最大の弱点だからである。現に、ウクライナのザポリージャ原発は、「重要電源」と「危険な力を内蔵する工作物」としての両面で、ロシアの“人質”にされている。すなわち、自国の領土内に原発を建て続けていくことは、わざわざ“急所”をあちらこちらに設け続けることと、さして変わらない。

 3月4日のNHK記事『ウクライナ ザポリージャ原発 “ロシア軍が掌握”【なぜ?】』の中で、日本原子力学会の山口彰会長は次のように語っていた。

「国際的な議論の中でこういう行為をもっと厳しく禁止するような取り組みもあってしかるべきだ」

 しかし、今さらどうやって「厳しく禁止する」ことに実効性を持たせるというのか? これから議論して「厳しく禁止」したら、プーチン氏は素直に原発から軍隊を撤退させるとでも思っているのか?  ハッキリ言おう。ジュネーブ諸条約が反故にされた今、原発はもういらない。危なっかしくって持っていられない。

 原発はこのたびの「ウクライナ攻防戦」により、決定的かつ致命的な弱点を晒してしまった。それでもなお電源施設として使い続けることが可能なら、その方法をまずはウクライナ政府にアドバイスしてあげてほしい。平和に暮らすことを願う21世紀の人類にとって、もはや原発はやっかいものでしかない。まとめると、次のようになる。

・原発は、戦時には敵国から標的にされる。

・原発は武力攻撃されると、防げないし、守れない。

・原発への攻撃を禁じたジュネーブ諸条約を露骨に破る国が現れた現在、攻撃された国やその周辺国は「国際条約破りだ」と罵ることはできても、原発への武力行使に対して同じ武力行使で応じることは危険極まりなく、おいそれとはできない。

武力で守れない原発

 こうして原発は、その国最大の急所となり、国の存亡を左右してしまうほどの「究極のリスク要因」となった。それほどまでのデメリットを上回るだけのメリットを、今後、原発に見出せるのか。そしてこの危機を、電力会社や原子力ムラの皆さんは克服できるのか。

 たぶん、無理だと思う。下手を打てば、「亡国の輩」あるいは「国賊」のレッテルを貼られる。原発は、地震や津波といった天変地異がなく、さらには戦争も起きていない平時でなければ稼働できないシロモノだった。その前提が崩れ、武力で原発を守ることができないことが明らかとなった今、自らの覚悟と根性と経済力等々で原発を守り切る自信のない国は、よその国から「原発を持つ資格のない国」と判定されることだろう。

 となれば、原発を直ちに廃止して“人質”も“急所”も消し去ってしまうことが、国土防衛を考える上での最優先事項となる。原発への攻撃を平然と命令できる国家元首が今の世に出現してしまった以上、原発をやめることの他に選択肢はない。それに「プーチン」は、たぶん一人だけではない。第二、第三の「プーチン」は、きっと現れる。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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