9月2日、2カ月半ぶりに開催された産業競争力会議では、4つの分科会設置が決められた。テーマは農業、医療・介護、雇用・人材とフォローアップ。
農業の分科会の取りまとめ役は、新浪剛史・ローソンCEO。フォローアップは、エネルギーや科学技術など6分野で、成長戦略が着実に進められているかどうかを点検する。取りまとめ役は、坂根正弘・コマツ相談役ら6人。6つのテーマごとに、取りまとめ役を1人ずつ置くかたちだ。
産業競争力会議は、安倍晋三首相や甘利明経済再生担当相ら関係閣僚のほか、10人の民間議員で構成されている。このメンバーのうち2~3人が外れるといわれている。現在の民間議員の顔ぶれは以下の通りだ。
・秋山咲恵:サキコーポレーション社長
・岡素之:住友商事相談役
・榊原定征:東レ会長
・坂根正弘:コマツ相談役・特別顧問(経団連副会長)
・佐藤康博:みずほフィナンシャルグループ社長
・竹中平蔵:慶應義塾大学総合政策学部教授(元経済財政相)
・新浪剛史:ローソンCEO(経済同友会副代表幹事)
・橋本和仁:東京大学大学院工学系研究科教授(応用化学)
・長谷川閑史:武田薬品工業社長(経済同友会代表幹事)
・三木谷浩史:楽天会長兼社長(新経済連盟代表理事)
去就が注目されているのは、竹中氏と三木谷氏の2人だ。新浪氏は非公式に政府から「残ってほしい」と依頼されたといわれている。
竹中氏が外れることを期待しているのは、産業競争力会議を陰でコントロールしている経済産業省の首脳陣だ。
三木谷氏は医薬品のネット販売の解禁で突っ張りすぎた。「全面解禁にならなければ民間議員を辞める」と官邸に最後通牒を突きつけ、中央突破した後遺症が残る。自民党の商工族や厚生族の中に、「三木谷に振り回されるようなぶざまな姿を、これ以上晒すな」といった強硬論がある。
●既得権益層と各省庁の巻き返し
法人税減税や、保険診療と保険外診療の併用を認める「混合診療」などが、6月にまとめた成長戦略に入らなかったことから、民間議員から強い不満が出た。竹中氏は「積み残しの課題(のほう)が大きい」と漏らした。医療・介護の分科会の取りまとめ役は佐藤氏だが、日本医師会が混合診療に強く反対している。
「国内の農業強化策の切り札」と期待された企業による農地所有の自由化は、9月2日、分科会のテーマとして新たに登場したが、「農業の根本的な見直し」(新浪氏)に踏み込むのは難しそうだ。今回、農業や医療分野の大胆な規制緩和策が主要テーマとして分科会で復活したが、参院選直前に一旦外されたのは、選挙をにらみ業界団体の反発を避けたいという安倍首相の思惑があったからだ。
自民党は参院選で大勝したが、皮肉なことに業界団体の利益代表も数多く当選した。成長戦略を具現化するための法案の国会審議はこれからだ。自民党の支持者に多い既得権益層と各省庁の巻き返しで、規制緩和は腰砕けになる恐れが多分にある。
●政府主導で企業再編加速か
もう1人注目される人物は、長谷川閑史・武田薬品工業社長だ。長谷川氏は雇用・人材の分科会の取りまとめ役になった。「転職しやすい人材評価制度作り」「裁量労働制など労働時間法制の見直し」を議論するが、労働側からは「首切りをしやすくする制度作り」との批判の声が根強くある。
政府は秋の臨時国会に提出する産業競争力強化法案(仮称)に、産業の新陳代謝策を盛り込む。企業の再編に国が主体的に関与することになり、単独では成長が見込めなくなった企業同士の再編を政府が主導する。
長谷川氏が身を置く国内製薬業界は世界のトップ10に1社も入っておらず、再編を進めなければならない分野の代表だ。菅義偉・内閣官房長官は4月の産業競争力会議で、「日本の製薬業界は欧米に比べて数が多く、規模が小さい。研究開発費が巨額になる中、欧米の企業と競争する上で、そこが弱点になっている。再編を進めるなど、民間側も協力してほしい」と製薬業界に檄を飛ばした。
国内製薬業界最大手のトップで経済同友会の代表幹事を務める長谷川氏を前にして、「銀行業界並みに合併して大きくなれ」と製薬業界に苦言を呈したのである。
新陳代謝を進めなければならない業界のトップが、産業競争力会議のメンバーにとどまるべきなのかどうか? 長谷川氏の交代説をささやく声が、少しずつ増えている。
(文=編集部)