2024年の私立大学の入学者のうち、「総合型+推薦型(公募制、指定校制、付属校・系列校)」での入学者が全体の56.1%を占める一方、一般選抜を経る入学者が全体の4割を切り38.8%となったことが注目されている。旺文社教育情報センターが調査結果を公表した。こうした現状を受け、大学進学の意義が低下し、将来的な就職やキャリア形成の面で大学進学のメリットが薄まっているという指摘もみられるが、実際のところどうなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
現在の大学入試の区分は、主に一般選抜、総合型選抜(旧AO入試)、学校推薦型選抜(旧推薦入試)の3つ。総合型選抜とは、志願者が提出する調査書や学業活動報告書などに基づき1次選考が行われ、2次選考として能力測定考査、口頭試問、面接などが設けられる。大学入学共通テストの成績が選考材料となるケースも少なくない。学校推薦型選抜とは、志願者の在籍高校による推薦が必要となるもので、高校が作成・提出する調査書、学校推薦型選抜志願書、推薦書、その他大学側が求めて提出される書類などに基づいて第1次選考が実施され、2次選考として面接や大学入学共通テストの成績などに基づき合否判定がなされる。
「イメージとしては大学入学者の半数は総合型選抜ないし学校推薦型選抜を経る者が占めており、今や『一般選抜=通常の受験』とはいえません。大学受験では、まず『どの区分で受験するのか』という選択が重要になってくるので、受験生を持つ保護者は古い意識を捨てなければ、子どもの判断を惑わせてしまいます」(大手予備校関係者)
一般選抜志願者が上位大学に集中
旺文社教育情報センターが発表した10月9日付「2024年私大入試、一般志願者微減。総合型・推薦型志向は続く」によれば、集計対象の私立大学502校のうち、約4割の196校は一般選抜の志願者数が2020年と比較し半数未満になっている。一般選抜志願者数のうち上位30大学が占める割合は59.6%に上り、一般選抜志願者が上位大学に集中し、下位大学ほど同志願者数が少ない傾向が見て取れる。
背景には大学業界全体の厳しい経営環境がある。日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば、2024年度の私立大学全体の入学定員充足率は98.19%で、入学定員割れの大学数は集計対象の59.2%にあたる354校、充足率50%未満の大学は43校となっている。すでに日本の大学は全入時代を迎えているのだ。
「大学側も志願者側も、いかに年を越さずに年内に入学を確定させるか、大学側からみれば“入学者数”を確定できるかがポイントになっており、その結果、総合型・推薦型を経て入学する人の数が増えることになる。国立大学は私立大学より学費が安いといわれるが、たとえば私立大学の数が多い首都圏の場合、地方で一人暮らしをして国立大学に通うよりは、自宅から私立大学に通うほうがトータル費用としては安く済むので、『東京の国立大学は無理だから地方の大学を受験する』とはなりにくいです。じゃあ首都圏の私立大学を受験するとなると、総合型・推薦型を使って早めに合格が決まる大学を探してみようという流れになるのは当然でしょう。こうして国立志向や一般選抜志向が薄まることになります」(大手予備校関係者)
難関大でも総合型選抜・学校推薦型選抜による入学者が増加
背景について大学ジャーナリストの石渡嶺司氏はいう。
「背景としては、受験生側・大学側、双方とも年内で入学を決めたい、という事情があります。受験生からすれば浪人は避けたく、不合格となると後がない一般選抜よりも早期に合否が判明する総合型選抜・学校推薦型選抜に流れる傾向があります。一方、大学としても入学が確定する総合型選抜・学校推薦型選抜にシフトしたい、と考えています。なお、これは低偏差値の大学だけでなく、難関大も同様に考えています」
総合型・学校推薦型での入学者が増加傾向にあるのは偏差値的には下位の大学なのか。
「総合型選抜は2020年度入試まではAO入試、学校推薦型選抜は推薦入試と呼ばれていました。特に2010年代以前はごく少数の難関大を除けば簡単に入学できる入試であったことは事実です。そのイメージから現在の総合型選抜・学校推薦型選抜についても、簡単に入れるイメージがネットで広まっています。あわせて、偏差値の低い大学ほど、総合型選抜・学校推薦型選抜が増加しているとのイメージも強くあります。
実際は、偏差値の低い大学だけでなく、難関大でも総合型選抜・学校推薦型選抜による入学者が増加しています。
・文京学院大学(2024年・河合塾偏差値が35.0~37.5)
2024年:一般選抜164、総合型選抜379、学校推薦型選抜410/一般選抜の割合17.2%
2013年:一般入試559、AO入試205、推薦426/一般入試の割合46.9%
・武蔵大学(2024年・河合塾偏差値が52.5~60.0)
2024年:一般選抜808、総合型選抜163、学校推薦型選抜337/一般選抜の割合61.8%
2013年:一般入試494、AO入試32、推薦427/一般入試の割合51.8%
・上智大学(2024年・河合塾偏差値が55.0~65.0)
2024年:一般選抜1423、総合型選抜305、学校推薦型選抜826/一般選抜の割合55.7%
2013年:一般入試1873、AO入試0、推薦1050/一般入試の割合64.1%
※データは旺文社『大学真の実力 情報公開BOOK』2014年度版・2025年度版に記載の数値/推薦は公募型・指定校制などの合算
ためしに3校抽出し、一般選抜の経年変化をまとめました。偏差値が40を切っている文京学院大学は一般選抜(入試)による入学者の割合が46.9%→17.2%と激減しています。一方、武蔵大学は51.8%→61.8%と増加。難関の上智大学は64.1%→55.7%と減少しました。3校だけなので断定はできませんが、難関大でも一般選抜の割合は減少傾向にあります」
大学進学のメリット薄まる?
総合型・推薦型での入学者の増加を受け、大学に進学するということの意義・価値が低下したという指摘もみられるが、実際にそのような側面はあるのか。
「大学進学の価値に対する疑問視は、いわゆる『今どきの若い者は』論と同じです。総合型選抜・学校推薦型選抜が簡単に入れる、とのイメージから疑問視がネットではよく見受けられます。実際は、企業が面接で『一般選抜か総合型選抜・学校推薦型選抜か、どちらで入学したのか?』などと質問することはありません。企業からすれば、売り手市場でそんな質問をする余裕などありませんし、学力を見るなら適性検査を課せばいいからです。
それと、総合型選抜・学校推薦型選抜といっても、学力テストを課すものもありますし、中堅大・中堅以下の私大でも面接で口頭試問を入れるようになっています。2025年度から東洋大学が総合型選抜で学力テストを課す・併願可能なものを始めます。これにより、学力シフトの総合型選抜も今後、一定数を占めるものと思われます」
では、将来的な就職やキャリア形成の面で、大学に進学するということが必ずしもメリットが大きいことではなくなっているといえるのか。
「これも先の質問と同じです。大学進学に価値がない、ということであれば高卒就職で十分なはずです。実際は、高卒就職の割合は1990年35.2%が2023年は14.2%と激減。大学進学率は36.3%→57.7%と大幅に増加しています。このデータから、『大学進学にメリットがない』との論は俗論にすぎず、現実とは大きくかい離することを示しています」
(文=Business Journal編集部、協力=石渡嶺司/大学ジャーナリスト)