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京大・理学部、女子枠の入試問題が独特「良問」「一部枠は物理で計算なし」

文=Business Journal編集部、協力=為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師
京大・理学部、女子枠の入試問題が独特「良問」「一部枠は物理で計算なし」の画像1
京都大学の公式Instagramアカウントより

 京都大学が2026年度入学の試験から理学部と工学部の特色入試で設置すると発表し、注目されている女性募集枠。京大は入試のサンプル問題を公表しているが、その内容をめぐり「良問」「物理の計算要素すら捨て切ってる」「文系私大出身でも解答できそう」などさまざまな声が寄せられている。サンプル問題の難易度はどう評価すべきか。また、問題の内容から、京大側のどのような意図を汲み取れ、どのような学生を獲得しようとしていると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 19年のOECD(経済協力開発機構)の調査によれば、日本の大学で理系分野に進む女子学生の比率は主要先進国38カ国中で最下位。理工系学部に所属する女子学生の少なさに対し危機感が高まるなか、入試で女性募集枠を設置する理工系学部は増えつつある。京都大学が導入する女性募集枠は、総合型選抜と学校推薦型選抜の2種類。総合型選抜の募集人数は理学部で15人。選抜方法は調査書・学業活動報告書・学びの報告書に基づき1次選考が行われ、合格した者は2次選考として大学入学共通テスト(配点1000点)、能力測定考査(1000点)、口頭試問(250点)を受ける。共通テストは6教科8科目で1000満点中、概ね70%以上の得点が必要。学校推薦型選抜は工学部で24人(5学科合計)。たとえば物理工学科の選抜方法は調査書・推薦書・学びの設計書・学びの報告書、および共通テスト。共通テストは6教科8科目で1000満点中、概ね80%以上の得点が必要。

「共通テストで8科目受験し、さらに70~80%得点しなければならないというのは難易度が高いといっていい。自ずと私立大学の受験対策しかしていない受験生は省かれ、現実的には難関国公立大学を志望している受験生が対象となってくる。また、入学後は難易度の高い数学Ⅰ~Ⅲ、数学A~C、物理、化学(編注:工学部物理工学科の場合)の問題を課す2次試験を突破してきた一般選抜経由の学生たちと一緒に学んでいくことになるので、十分な学力がないと進級できないことになり、一般選抜でも合格できるレベルの学力を有しているほうが望ましいだろう」(大手予備校関係者)

「難易度的には易しいですが、非常によくできた問題」

 公開されたサンプル問題は、理学部の能力測定考査で使用されるもの。物理学・数学入試宇宙・地球惑星科学入試に分かれており、前者は本番の入試では120分の試験時間で物理の問題が3問、数学の問題が1問出題される。後者は小論文(120分)で、サンプル問題は19個の自然現象を表す言葉のなかから一つを選択し、そのおもしろさを伝える動画を作成すると仮定して第1~3幕のナレーション原稿を作成させるというもの。計算問題などは出てこない。

 前者の物理のサンプル問題は力学、電磁気で計算問題も含まれているが、難易度はどう評価すべきか。代々木ゼミナール物理科講師で長年にわたり「東大物理」「ハイレベル物理」などの講座を担当する為近和彦氏に聞いた。

「京大の一般選抜の物理の問題は例年、大問が3問出題され、うち2問は高校生にとっては初見の物理現象のことが多く、これを高校で学ぶ知識を使って解くというもので、難易度は高いです。また、一般的な入試問題の計算問題の解答は文字と数字から成る文字式になりますが、今回の女性募集枠のサンプル問題は解答が文字式だけでなく計算も含まれている点が特徴的です。教科書を踏襲することを意識していると思われ、一般的な入試用問題集だけを解いていては対策できず、教科書の発展部分などに取り組む必要があるでしょう。難易度的には易しいですが、非常によくできた問題だと思います」

深くコミュニケーションを行う能力があるのかを問う

 問題の内容から読み取れる京大の意図とは何か。

「あくまで推察ですが、京大は、受験者がこの能力測定考査で解答した内容について、口頭試問で深く質問していこうと考えているのではないでしょうか。たとえば大問2のコイルの問題は、ラジオの受信機で使われている理論に関係しており、大問3の電磁誘導の問題はIH調理器や交通系ICカードで使われている理論に関係しています。ですので、ペーパーテストである能力測定考査と口頭試問を通じて、物理の公式を含めた基本をしっかりと理解し、それを現実の自然現象と関連づけて深くコミュニケーションを行う能力があるのかを問うていると感じます」(為近氏)

 ちなみに為近氏によれば、20~30年ほど前と比較して医学部を志望する女子学生は増えている一方、理工系学部を志望する女子学生はいまだに少ない印象があるというが、当の女子受験生は女性枠採用についてどのような捉え方をしているのか。予備校関係者はいう。

「理工系学部を志望する女子受験生たちの話を聞く限り、『入学後に周囲から女子枠で入学したと思われたくない』『就職活動で女子枠での入学かどうかを聞かれそう』『男女差別だと感じる』といった否定的な声が多く、あまり歓迎されていないという印象があります。また、私立大学と比べて、国公立大学の理工系学部は女子向けの設備整備が遅れており、また女子学生の数が少ないため『周囲から、女性だから進級できた、ゼミに入れたという目で見られたくない』という理由により、女子受験生から不人気な面はいまだに強いです」

(文=Business Journal編集部、協力=為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師)

為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師:取材協力

為近和彦/代々木ゼミナール物理科講師:取材協力

1958年生まれ。東京理科大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。11年の高校教諭をへて、1996年より代々木ゼミナール講師となり、大学入試対策の講座を担当。著書に『解法と発想のルール』(学研)、『ビジュアルアプローチ力学』『ビジュアルアプローチ熱・統計力学』(森北出版)、『為近の物理ノート』(代々木ライブラリー)など多数。

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