米国発の人気ワードパズルゲーム『Wordle』。朝の通勤時間帯にスマートフォンでプレーするユーザーも多いためか、日本国内のTwitter上でも連日午前中に「Wordle」がトレンド入りしている。そんなWordleの親会社、米ニューヨークタイムズ(NYT)は9日、異例のニュースリリースを公表した。リリース名は『A Note About Today’s Wordle Game』。この日のWordleの問題の正解となる“ある言葉”が、米国内で物議を醸したことについての釈明だった。
中絶めぐる論議激化のなか、「fetus」(胎児)が回答に?
Wordleは6回の試行の間に、5文字の英単語を推測するゲームだ。今年1月、ニューヨークタイムズが数億円規模の非公開価格で同ゲームを買収した。
一連の騒動は、この日の問題の解答が「fetus」(胎児)という言葉だったことが発端となった。
米国では、政治専門サイトがリークした「米連邦最高裁判所が中絶を合法化した重要判決(女性が中絶をする権利を認めた判決)を覆す方針を示す文書」によって、デモ隊が連邦最高裁に押し寄せる大騒動になっている。
このタイミングで妊娠中絶問題をほのめかす言葉がワードパズルの解答となったことで、SNSユーザーなどから「ニューヨークタイムズが意図的にこの言葉を解答に設定した」などと疑念や批判の声が上がった。
冒頭に紹介したリリースで、同社は「意図的ではなく、偶然の一致」であり、「Wordleがニュースとは一線を画している」ことを強調。物議を醸した言葉は昨年ゲームに組み込まれたものだと説明した。インターネット上での指摘があってから対応したため、ブラウザウィンドウを更新すれば「議論の余地のない答えになった」と述べた。米国に駐在経験のある全国紙記者は次のように語る。
「妊娠中絶の法解釈をめぐる連邦最高裁の文書のリークは、米国内を震撼させました。トランプ前政権下で過半数を占めるようになった連邦最高裁の強硬保守派が、今回の中絶問題を含めた米国の主要課題について、“自分たちの思想・主義にもとづいた法律の変更を狙っていること”を明らかにしたからです。
前回の大統領選から米国のネット上は、トランプ支持派とリベラル派の論争が過熱化しています。ここにきて西欧自由主義に挑戦するかのようなロシア軍のウクライナ侵攻もありました。米国民にとってトランプ支持派による合衆国議会議事堂占拠事件で複数の死者が出たことに脅威を感じる人は多く、トランプ支持派への批判は日に日に強くなっているのです。
ニューヨークタイムズはトランプ前大統領政権などに対する調査報道で知られる媒体です。トランプ氏はたびたびニューヨークタイムズの報道を『フェイクニュース』と痛烈に批判していました。トランプ支持派や保守派の一部のSNSユーザーにとってみれば、人気ゲームを使って、自分たちに対する批判をほのめかしたと取ったのかもしれません。いずれにせよ、今の米国はワードパズルゲームの解答ひとつで大騒ぎになるくらい緊張した状況だということです」
現実世界で人々が直面する政争や戦争、経済的混乱を、“ひととき”忘れさせてくれるはずのワードパズルにまで、深刻な社会不安が影を落としている。
(文=Business Journal編集部)