「いったい、いくらですね、歳費をもらっていると思いますか。議長になってもね、毎月もらう歳費は100万円しかない。“しか”というと怒られちゃうけど、そんなにもらってるのかと言うけど、会社の社長は、1億円は必ずもらうんですよ、上場の会社は」
今月10日、東京都内の会合で、自民党の細田博之衆議院議長はそう語り、議員定数削減に関し「人員を減らせばいいというものかどうか、この辺で考えたほうがいい。民主主義というのは、たくさんの議員で議論をしてもらうほうがよく、1人当たりの月給で手取り100万円未満のような議員を多少増やしてもバチは当たらない」と述べた。
議員歳費は本来月額129万4000円で、新型コロナウイルス感染拡大を受け、2割減額の103万5200円になっている。野党は一連の発言に関し、「民間感覚で照らし合わせて、ちょっとあり得ないと思う」(日本維新の会・藤田文武幹事長)などと批判のトーンを高めている。大手自動車メーカー社員は細田氏の発言に関して次のように“民間感覚”を代弁する。
「上場企業の社長でも毎月1億円の収入がある人物は日本国内でそう多くはないでしょう。仮にそれだけの収入を得られるということは、事業自体が大きな成功を収め、多くの従業員やその家族を養っていることの結果だと思いますが……。国会議員は政策を奏功させ、国民をちゃんと養っているのでしょうか。疑問です」
細田氏が頑なに続ける「10増10減」批判
細田氏は、一票の格差を是正するため衆議院小選挙区の定数を人口比に応じて15都県で「10増10減」することに関し、たびたび否定的な発言を繰り返している。自民党関係者はその背景を次のように推測する。
「そもそも細田さんの地元である島根1区など山陰地方は“1票の格差”でたびたび取り上げられている曰くつきの選挙区です。そのためか、4月に開かれたあるパーティーで、細田さんは『1票の格差が2倍を切ればいいので小選挙区を東京で2つか3つ増やせばよく、ほかの県はとばっちりだ』と述べ、物議を醸しました。真意は当人しかわかりませんが、もしかすると、安倍晋三元首相への“信義”があるんじゃないですか」
では、安倍元首相に対する“信義”とは何か。別の自民党衆議院議員秘書は次のように話した。
「ご存知のように、細田さんは昨年11月に衆議院議長に就任するのにあたり、長年ご自身が率いてきた清和政策研究会(旧細田派、現安倍晋三派)の会長職を安倍さんに引き継ぎました。実態として清和会は長らく安倍晋三派だったのですが、名実ともにそうなったわけです。その直後から『10増10減』に対する批判が本格化しました。
現在、議論されている『10増10減』で議席が減らされることになっているのは宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の各県で1議席減らすというものです。安倍さんの“お膝下”の山口は言うまでもなく、各選挙区には安倍さんに近い議員もいます。安倍さんの顔に泥を塗るような議席削減には反対なんだと思いますよ」
激戦の参院選東京選挙区に思わぬとばっちり?
衆議院の“1票の格差”を是正するために「5議席増」が提案されている東京都。今年夏に予定されている参議院議員選挙では激戦が予想されている。
細田氏の発言があった10日、東京都内のホテルでは「東京都議会自民党 躍進の集い」が3年ぶりに開かれていた。会場には約2000人が参集。参議院選東京選挙区(定員6)から立候補を予定している現職の朝日健太郎氏と、新人で元「おニャン子クラブ」メンバー生稲晃子氏が登壇し、決意表明を行った。
岸田文雄首相、麻生太郎副総理、茂木敏充幹事長、高市早苗政調会長らが列席する力の入りようで、なんと小池百合子都知事も姿を現した。
東京選挙区では立憲民主党の蓮舫氏、公明党現職の竹谷とし子氏、共産党現職の山添拓氏、そして朝日氏が今回改選にあたる。また自民党現職の中川雅治氏、立憲現職の小川敏夫氏が引退するため、自民党は2人目の候補として生稲氏を新人として送り込む予定だ。
自民党東京都連関係者はぼやく。
「このところ公で発言する機会があるたびに、細田さんは似たような主張を続けていらっしゃいますが、正直申し上げて次の選挙を戦う自民党のためにはなっていない気がします。
議席削減対象となっている地方選挙区の議員も大切な自民党の仲間です。地方と都市の格差が開き続け、『地方の有権者の声をくまなく聞き国会で反映させる』という、(細田氏の)お気持ちも痛いほどわかります。『10増10減』に地元広島が含まれる岸田首相も身を切るお気持ちだとは思います。とはいえ財政改革もあるので、このままというわけにもいかんでしょう。細田さんのような意見を続出させないためにも、選挙区替えなど、実績のある議員を適正に再配置する必要があるとは思います。
いずれにせよ新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢で世界経済が大混乱するなか、国家運営を担う与党・政権が揺らいではなりません。つまり選挙に負けることがあってはならないのです。
“庶民感覚とズレた発言”は選挙に思わぬ悪影響を与えます。そうした発言がこれまでも、これからも、致命傷になることを自民党員全員が心がけたいところです」
(文=Business Journal編集部)