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安倍元首相が提起した「核共有」が絶対ムリな本当の理由…実際は米国が許さない?

文=山崎直人/軍事ライター
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安倍晋三元首相(「gettyimages」より)
安倍晋三元首相(「gettyimages」より)

 ウクライナ情勢が緊迫する中、3月10日にはロシアとウクライナの外相会談が行われたが、両国とも主張を譲らず、議論は平行線をたどった。軍事力で大差があるロシアの侵攻に対して、ウクライナは想定以上の抵抗をしているが、ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用もほのめかすなど、予断を許さない状況が続く。

 そんな中、日本では「ニュークリア・シェアリング(核共有)」の議論が巻き起こっている。安倍晋三元首相が議論の必要性を提起して話題となったが、岸田文雄首相は「非核三原則」を盾に否定している。安全保障上の脅威が増す中、唯一の戦争被爆国である日本はどのような選択をすればいいのだろうか。

自国優先主義を貫くアメリカ

 核共有とは、アメリカの核兵器を同盟国に配備し、共同で運用する安全保障政策だ。米ソ冷戦時代に導入され、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコが参加している。使用に関しては参加国も意思決定に関与するが、最終的な判断はアメリカが行う。

「アメリカの核兵器を同盟国が平時から配備することで、非核保有国も核抑止力を持つことができる。つまり、核抑止力を共有する仕組みともいえます」(軍事ジャーナリスト)

 古くから自国優先主義を貫くアメリカは、何かを判断する際には自国の国益を優先する。ロシアに侵攻されたウクライナはNATO加盟国ではないため、アメリカは軍を派遣することはなく、武器供与にとどめている。世論の反対を押し切ってでも、直接ウクライナを守ろうという意思は感じられない。もちろん、アメリカに限らず国益を優先するのは当然といえば当然だが、アメリカの自国優先主義は群を抜いている。

「ソ連崩壊後、ウクライナ、ロシア、アメリカ、イギリスは、ウクライナが核不拡散条約に加盟することで同国の安全を保証する『ブダペスト覚書』を交わしましたが、今回、ロシアがそれを反故にしました。アメリカは自国が関わった国家間の合意を破られたにも関わらず、ウクライナに対しては限定的な支援にとどまっています」(同)

日本の核共有は米国が許さない?

 では、そんなアメリカと日本が核共有を行うというのは、現実的なのだろうか。日本の安全保障はアメリカの“核の傘”に守られている状況だが、核共有となれば風向きが変わってくるという。

「有事の際にはアメリカが反撃してくれるはず……という前提のもとに成り立っているのが今の日本の安全保障政策ですが、実際にアメリカがリスクを冒してまで全力で守ってくれるのかどうかはわかりません。そこで、核共有ということになれば、アメリカからは『我々を信用していないのか』という反発が出る可能性もあります。アメリカにとって日本は“意のままに操れる国”ですから、現状の体制が一番やりやすいのではないでしょうか」(同)

 日本が「アメリカの51番目の州」などと揶揄されるのも、軍事を筆頭に重要な決定権をアメリカに握られ、逆らえない状況だからだ。

「『持たず、つくらず、持ち込ませず』の非核三原則を国是とし、核アレルギーが強い日本でリーダーが核共有を言い出すには、圧倒的な世論の後押しが不可欠です。戦前のアメリカは日本を攻撃したがっていましたが、国内の厭戦ムードが強く、タイミングを計っていました。そこで真珠湾攻撃が起きたため、空気が一変したという経緯があります。少なくとも、それぐらいの劇的な変化が必要でしょう」(同)

 現状では、日本で核共有の議論が本格化するのはまだまだ先になりそうだ。

(文=山崎直人/軍事ライター)

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