日本時間の9月8日、2020年夏季五輪の開催都市を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会で、開催都市に東京が選ばれた“ブエノスアイレスの奇跡”。その模様をテレビ各局はこぞって報じていたが、各局ともにスタジオと現地との中継で“ちぐはぐな”やり取りが目立っていたという声が多く聞かれる。衛星中継のため、タイムラグが発生してしまうのは仕方ないとは思うが、何か有効な対処法はないのだろうか?
初の著書『いつも一言多いあのアナウンサーのちょっとめったに聞けない話』(小学館)を8月に上梓し、ニューヨーク赴任経験もある元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏に聞いた。
「僕はニューヨークからの中継をやっていましたが、その時はタイムラグが約2秒ありました。2秒間というのは短いような感じがするかもしれませんが、実際には視聴者の方が、『うん?』と違和感を覚えるには十分な時間だったりします。そうならないように、私たちは「発言がかぶった場合にはどちらかがしゃべり続ける」というルールをつくりました。今回の東京五輪決定中継では、そういったルールが各局で徹底されていなかったようですね。予めきちんとルールをつくっておかないと、お互い『どうぞ』となってしまうんです。例えば、『発言がかぶった時は、現場がしゃべり続ける』というルールをつくっておけば、スムーズだったでしょう」
また、海外中継に限らず私たちがよく目にする放送事故が、「現場の○○さ~ん」とスタジオが呼んでいるのに、現場がまったく反応しないケースだ。この種の事故について長谷川氏は、突然の事件や災害のレポートなど、現場が慌ただしい場合に起こりがちだと解説する。
「本来、イヤホンに届くべき声が届いていないのであれば、音声トラブルが考えられます。ただ、基本的に現場の人間は映像を見ながらオンエアの状況を確認しなければいけません。ですから、レポーターがまったく気付いていないような事故の場合には、音声ミスに加え、現地スタッフ全員が原稿や機材の確認に追われ、誰も映像を見ていないという状況が重なっていると思われます」
同様の音声ミスとしては、現場のレポーターが話し始めているのに、声が届いてこない事故がある。これは、出演者のマイクのON/OFFや音量を操作している音声スタッフが、誤って別のマイクの音声をONにしてしまった場合などに起きるという。
「こういうミスが発生した時、番組や局を代表して誤らなければいけないのが、私たちアナウンサーです。よく、『オレのせいじゃないのに、とか思ってるんじゃないか?』と聞かれますが、そんなことはありません。そのあたりはどのアナウンサーも“局の顔”である責任を自覚していますから、理解しています。番組によってはアナウンサーではなく、タレントさんが司会をやっている番組もありますが、もちろん大御所の司会者に頭を下げさせるわけにはいかない。自分自身のミスではなかったとしても、局の代表として頭を下げる覚悟は、どのアナウンサーも持っています。ただ、あまりに謝罪が続き過ぎると、つらい瞬間があるというのは事実ですね」
普段な何気なく私たちが見ているテレビ中継の裏側には、アナウンサーたちのさまざまな苦労が隠れているようだ。
(文=編集部)