近年、ヤクザを取り巻く状況は、暴対法やそれに基づく暴排条例の施行により、それまでにないほどの締め付けを余儀なくされることになっていた。
例えば、ヤクザのシノギと呼ばれてきたものは、ほぼすべて逮捕案件へと繋がり、一見何の罪にあたるのか見識者ですら理解できないような案件でも逮捕されるヤクザや組織幹部が続出した。たとえば、身分を明かさす賃貸物件を借りたり、銀行口座を開設したりしただけでも詐欺罪で逮捕。携帯電話を分割払いで契約しただけでも、同様の罪に問われたのだ。
そうした世情により、多くの組員がヤクザ渡世から去ることになっていき、当局が発表する統計上でも組員は年々減少していった。さらに、そんな中で抗争などというものを起こせば、当局は黙っていないことは明らかだった。抗争中、一人でも死傷者が出れば、当局のメスは組織のトップにまで類が及ぶと考えられてもおかしくない状況になったのだ。
7年前に六代目山口組から、神戸山口組が割って出た要因のひとつには、そんな時代背景があったのではないか。つまり、神戸山口組としては、分裂状態になったとしても、武力による抗争に発展することはないだろうと考えていた――実際にそれは分裂当初、業界関係者の間で囁かれていたことだ。
だが、そうした目論見を完全否定するかのように、六代目山口組サイドは、ときにマシンガンを使って離反者を銃殺するほどの激しい実力行使に出たのである。さらに、神戸山口組に攻撃をしかけた実行犯たちは「生きて社会の地を踏むことは叶わないと覚悟の上で行動していた」(ヤクザ関係者)といわれる通り、事件後、自ら出頭してみせるケースが頻発した。そこからは、六代目山口組の断固たる覚悟と姿勢が見てとれたのだ。
対して神戸山口組サイドは、当初こそ、練り歩きやダンプ特攻による報復を行ったが、あえて全面抗争に突入するという一線を越えることは避けたといえるだろう。それが第二の誤算、組織の求心力の大幅な低下に繋がっていったのではないだろうか。
いまだ暴力がモノをいうヤクザ社会において、やられてもやり返さないという姿勢は致命的だ。そうした姿勢が求心力を奪い、日を追うごとに、組織や組員が神戸山口組を後にしていったのである。そうして、いったん衰退した組織力を取り戻すのが容易でないことは、何もヤクザの世界に限ったことではない。
現在の神戸山口組は先日、新人事が発表されたものの“三役”と呼ばれるうちの若頭、舎弟頭は空席のままだ。そうした状態で六代目山口組を向こうに回し、抗争することなどできるだろうか。答えは否ではないか。現在では神戸山口組の組員数は、当局が考えているよりもかなり激少しているといわれている(警察庁のデータでは、2021年末の同組織の構成員数は約500名)。
それでも神戸山口組トップの井上邦雄組長は、引退も解散も示唆していない。対して「そこに大義はあるのか。はっきりいえば、残っているのは、井上組長の意地だけではないか」という業界内外からの声は日に日に大きくなっている。
「六代目、神戸に限らず、下の組員たちは報われることがない。攻める側にも攻められる側にもそれぞれ個々の生活や日常があるのに、特定抗争指定暴力団に指定され続けることで、活動も制限され、規制強化も続く。井上組長が引退し、神戸山口組を解散させれば、そうした負担は払拭されることになる。そろそろ潮時ではないかと、だいたい者が口にしている」(ヤクザ関係者)
また某組織の幹部はこう話す。
「六代目山口組を割って出た際、神戸(山口組)としては、追随して自分たちに流れてくる組員がもっと多くいると予測していたはずだ。それが、思っているより芳しくなかったのも、誤算の一つではないか。なおかつ、予想だにしていなかった内部の亀裂。主軸だった山健組までも、現在では六代目への帰還している。神戸の発足当時、誰もそんなことは想像すらしていなかっただろう」
もはやレームダッグ状態ともいわれる神戸山口組だが、山口組を名乗り、菱の代紋を掲げている限り、「そうした状態を許さない」という六代目山口組の大義が失われないだろう。つまりは、神戸山口組の解散、組長の引退のみが対立状態の解決策で、それまでは六代目山口組が手綱を緩めるとは考えにくいのだ
「7年間、神戸山口組は激しい武力攻撃を浴びせられ、勢力を著しく落としながらも存続してきました。それに対して、現場の捜査員ですら『もうよいのではないか』という声が上がってきています。そろそろ、分裂問題を解消する時期に突入しているのではないでしょうか」(ヤクザ事情に詳しいジャーナリスト)
2015年に突然起きた分裂問題は、神戸山口組が新人事を発表するという動きが出てきた一方で、突如、幕を下ろす可能性は否定できないのではないか。