ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 『水ダウ』幼児へのドッキリが物議
NEW

パニックで顔面蒼白『水ダウ』幼児がターゲットのドッキリが物議、児童虐待の懸念

文=Business Journal編集部、協力=杉山崇/神奈川大学人間科学部教授
【この記事のキーワード】, , ,
パニックで顔面蒼白『水ダウ』幼児がターゲットのドッキリが物議、児童虐待の懸念の画像1
TBS放送センター(「Wikipedia」より)

 3月29日放送のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)内で、5~6歳の幼稚園児をターゲットにしたドッキリ企画が放送。仕掛けられた幼児たちが表情を失って狼狽する様子が映し出されたことから、子どもたちの心に大きなトラウマを残してしまうのではないかという懸念の声とともに、十分な判断能力がない幼児を騙すという企画内容に批判が広まっている。

 この日の『水ダウ』内では、「幼稚園でのかくれんぼ 隠れた友達が全く見つからず見つかるのは見ず知らずの子供ばっかりだったら幼稚園児でもさすがに恐怖感じる説」を検証するという企画が放送。隠れる側の「仕掛け人」には、入れ替わる前の子どもと顔や背格好などが似た子どもたちが用意された。

 ドッキリの1人目のターゲットとなった6歳の女の子は、「かくれんぼ」の鬼として物陰に隠れた友だちを探し、1人目を見つけ「みーつけた」と声をかけ、相手から「みつかった」という返答を受けたが、そこには一緒に遊びを始めた友だちとは違う、見ず知らずの子の姿が。これを受け女の子は、事態を飲み込めないという様子で無表情で踵を返し、ぼそっと「かける君じゃない人がいた」とつぶやく。その後、2人目を見つけるも声をかけることができず、無表情で通り過ぎ、3~5人目を見つけ声をかけるも、全員が知らない子ばかり。最終的には知らない子たちに囲まれ、「誰?」とつぶやき、「お茶飲んでくるので待ってて」と言い残し、その場から逃げ去っていった。そしてスタッフから「ドッキリ」とネタばらしされるも、困惑した表情で「わかんない」と口にするのが精いっぱいだった。

 次にターゲットとなった5歳の男の子は、鬼として1人目を見つけ「みーつけた」と声をかけ、相手から「みつかっちゃった」と返されたが、顔をみると知らない子だったため「え? 誰?」とつぶやく。続けて2人目を見つけたものの声をかけることができずスルーし、その後は隠れている子どもたちの顔を確認することも探すこともやめ、鬼を放棄。一人で園庭にたたずみ「ちっ、ムズ」と小声でつぶやくのだった。

 スタジオでVTRを見ていたゲストのYOUや小木博明(おぎやはぎ)からは「怖っ」という感想が漏れていたが、ターゲットの子どもたちは明らかに混乱と困惑の表情を見せていたため、SNS上では以下のような声が続出している。

<子供にこういうは結構ダメージ残りがち>(原文ママ、以下同)

<園児は大人の虐待>

<子ども心に「どうでもいいこと」「いつもの楽しい遊び」じゃなかったんだからエピソードトークになるけど それが必ずしも良い影響として残ってるかっていうとまた別の話なんじゃないの 子どもって何が残るかわからないから気を付けないといけないっていうのはあると思う>

<観てて不快になるような企画>

 神奈川大学人間科学部教授で臨床心理士の杉山崇氏はいう。

「アメリカの心理学者・ワトソンが行った、1歳の乳児に恐怖体験を与えるという実験で、正式な実験報告ではないが、実験対象者は大人になってから普通に生活を送っていたという報告がある。今回の『水ダウ』企画のレベルで、子どもの心に何か影響が残るとは考えにくいものの、恐怖体験の心への残りやすさには個人差がある。アメリカ人は楽観性遺伝子といわれるものを持つ人が多く、恐怖体験が残りにくいが、日本人の7割は恐怖心が残りやすくなる遺伝子を持っているといわれている。ドッキリのターゲットになった子どもが今回の体験を夢で見たり、友だちと交流中に彼らが別の人に代わってしまうことが脳裏をよぎったりと、そういった心の癖がついてしまう可能性はあるかもしれない」

 では、今回の『水ダウ』企画は適切だったといえるのだろうか。

「大人が無力な子どもを騙し、最終的に子どもが楽しくなれる仕掛けがあるわけでもなく、子どもがショックを受けたまま終わるというのは、視聴者が『大人が子どもをイジメている』と受け取り不快な思いを抱くかもしれない。その意味で、もう少し配慮があってもよかったのではないかと感じる」(杉山氏) 

「お笑いとして成立していない」

『水ダウ』といえば過去にも企画がトラブルに発展したケースは少なくない。2018年、芸人らを監禁するという企画では、東京・JR恵比寿駅近くの路上で芸人が車に押し込まれるところを目撃した通行人から110番通報が相次ぎ、警察が一時、誘拐の可能性があるとして捜査に乗り出していたことが発覚。TBSは警察から厳重注意を受けた。同年には安田大サーカスのクロちゃんを遊園地「としまえん」に設置された檻に入れて一般公開するという企画を行い、深夜に周辺の住宅街に人が殺到し騒音被害や渋滞が起きたことで110番が相次ぎ、警察官が出動するという事態が発生した。

 このほか、21年には番組内では「『今から行くから待ってろ!』と電話でキレてきた相手が、その怒りそのままにやってきたとき、どんなにおかしな姿でもそこには触れられない説」を検証するという企画で、「ゆきぽよ」が後輩モデルの華に電話しガチギレし、その直後、カフェにいる華の前に「ゆきぽよ」が登場したのだが、華は号泣。華は「すみませんでした」と謝り続け、ネタばらしをした後も泣きやむことができず収拾がつかない状況となり、批判が続出したこともあった。

 テレビ局関係者はいう。

「芸人にドッキリを仕掛けるのと、一般人のしかも就学年齢に満たない幼児に仕掛けるのとでは、話がまったく違ってくる。今回、『仕込み』の子どもたちが全員、ターゲットにされた子どもと一緒に鬼ごっこを始めた友だちと非常に似た『そっくりさん』だったため、それが恐怖感を増長させていた。仕掛けられた子は驚きを通り越してパニくっていたので、番組サイドも炎上必至を覚悟の上での企画だったのでは。

 以前と比べて一般人相手のドッキリは難しくなっているが、たとえば一般人が好きなタレントに会えるなどハッピーエンドのサプライズ的なドッキリはよくみられる。今回のようにターゲットを落ち込ませるバッドエンドの方向性、さらにそのターゲットが幼児というのは、企画としては斬新と評価できるが、今のテレビ的にはギリギリアウトという印象。BPO(放送倫理・番組向上機構)の審議対象になるレベルかはわからないが、それなりに批判があがっても仕方ないだろう」

 また、別のテレビ局関係者はいう。

「ターゲットになった子どもが顔面蒼白になって、恐怖のあまり隠れている他の子に声をかけられなくなり、探すこと自体を放棄していたことが、彼らが受けたショックを大きさを物語っている。幼児虐待との誹りは免れないという印象で、怖さで思考が停止した幼児を笑いの対象とするというのは、お笑いとして成立していない」

 攻めた企画がウリの『水ダウ』だが、今回ばかりはやや度が過ぎてしまったのかもしれない。

(文=Business Journal編集部、協力=杉山崇/神奈川大学人間科学部教授)

杉山崇/神奈川大学人間科学部教授、臨床心理士

杉山崇/神奈川大学人間科学部教授、臨床心理士

心理学者。神奈川大学大学院人間科学研究科委員長。心理相談センター所長。公益社団法人日本心理学会代議員。一般社団法人日本キャリアカウンセリング学会副会長。法政大学大学院講師。学習院大学大学院人文科学研究科にて心理学を専攻。在学中から、子育て支援、障害児教育、犯罪者矯正、職場のメンタルヘルスなど、さまざまな心理系の職域を経験。心理学と脳科学を融合した次世代型の心理療法を目指す。心理学だけでなく社会学、人類学、マーケティング、児童学、家族学、犯罪学、進化学、認知神経科学などにも造詣が深い。
杉山崇 オフィシャルサイト

Twitter:@sugys_lab

パニックで顔面蒼白『水ダウ』幼児がターゲットのドッキリが物議、児童虐待の懸念のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!